「男性の半分しか戻らない」悲鳴から始まった豊岡市の逆転劇。地域を救う「ジェンダーギャップ解消」5つの衝撃事実

 

 本日は福祉と教育の会派の視察でした。

 

 日本の多くの地方自治体が直面している人口減少問題。「地元の仕事が少ない」「魅力的な遊ぶ場所がない」といった従来の人口減少対策をどれほど打ち出しても、若者の流出に歯止めがかからない地域は少なくありません。

 兵庫県豊岡市もまた、深刻な人口減少に長年頭を抱えていました。1980年に約10万人だった人口は2025年には約7万1,800人まで減少。このまま何も手を打たなければ、2040年には約5万8,000人(3割減)、2060年には約3万9,000人弱と、半世紀で人口が半分以下に崩壊するという壊滅的な将来推計が突きつけられていたのです。

 しかし、データを詳細に分析する中で浮かび上がってきたのは、単なる「若者の過疎化」という言葉では片付けられない不都合な真実でした。それは「進学や就職で一度まちを出た若年女性が、圧倒的に戻ってこない」という揺るぎない現実です。

豊岡市が直視した「まちの存亡の危機」の核心は、長年放置されてきた男性中心社会への忌避感や、社会構造に根深く残るジェンダーギャップ(性別不平等)にありました。これは生易しい福祉政策ではなく、まちの存続をかけた最優先の生存戦略だったのです。

この危機に対し、豊岡市は行政・地元企業・地域コミュニティ・教育現場を巻き込み、これまでの常識を覆す大胆な改革に乗り出しました。本記事では、豊岡市が展開した「ジェンダーギャップ解消」にまつわる5つの衝撃事実と、現場で起きた変革のドラマの全貌を紐解きます。


衝撃事実1:男性の半分しか帰ってこない「豊岡ショック」の真実

人口動態データの詳細な分析を進めていた豊岡市幹部らに、激震が走ったのは2017年夏のことでした。2015年の国勢調査データを基に算出した20代前半の「若者回復率」(10代後半で進学や就職により転出した若者が、どれだけ地元に戻ってきたかを示す指標)に、絶望的な男女差が存在していたことが判明したのです。

  • 男性の回復率:52.2%(2人に1人は地元へ戻る)
  • 女性の回復率:26.7%(戻ってくるのはわずか4人に1人)

つまり、女性は男性の半分しか戻ってきていなかったのです。市はこの衝撃的な事実を「豊岡ショック」と名付け、構造的な原因究明に乗り出しました。

さらにデータを分析すると、男性の回帰率が都市部の景気や求人動向に連動して上下する(景気が悪くなると地元に戻る)のに対し、女性の回帰率は景気の良し悪しに関係なく、右肩下がりを続けていることが判明しました。

市は本当の理由を探るため、行政職員が直接聞くのではなく、豊岡に帰ってきた同世代の女性友人を介して「帰ってこない女性へのインタビュー調査」を実施。そこで浮かび上がった本音は、従来の「仕事がない」「遊ぶところがない」といった表面的な理由以上に、地域社会に対する切実な忌避感でした。

「男性に比べて女性はチャンスの機会が少ないという、そういう不公平、そういう社会。男性中心社会になっている、これに対する嫌悪感が女性の場合が多い」

同じ社会構成員でありながら、女性であるという理由だけで能力を発揮するチャンスが奪われるアンフェアな構造が、若い女性たちに「豊岡には戻らない」という決断をさせていたのです。


衝撃事実2:男性は企画、女性は窓口。「無意識の偏見」を痛烈反省した市長の詫び状と庁内改革

地域や企業に「意識改革」を迫る前に、豊岡市は自らの足元である市役所内部の点検を開始しました。

40代の市職員のキャリア履歴を調査したところ、驚くべき実態が明らかになりました。異動回数自体は男女で同等であるにもかかわらず、配属先の業務内容に決定的な偏りがあったのです。

  • 男性職員: 企画、総務、財政など、組織の核心的・横断的なキャリアを経験
  • 女性職員: 住民サービスの窓口や定型的な処分業務などに固定化

人事担当者が意図的に差別を行っていたわけではありません。前任者の配置を踏襲し続ける中で、「女性には窓口業務が向いている」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が働き、結果として致命的なキャリア格差を生み出していたのです。

この結果を受け、当時の市長は女性職員に対して直接お詫び(謝罪)を行い、即座に庁内改革を決断しました。

2年間で3カ所の部署を経験させるジョブローテーション制度を導入し、企画や総務、財政といった重要部署へ女性職員を積極的に配置。さらに「キャリアサポートシート(CSシート)」を導入し、上司と部下が定期面談でライフイベントとキャリア形成の両立をオープンに話し合える仕組みを整えました。

また、市役所特有の「縦割り行政」を打ち破るための組織工夫もなされました。「ワーク・ライフ・バランス推進室」を総務部内に設置した際、民間企業との接点が多い経済振興部門の男性職員と、庁内人事の知見を持つ女性職員をペアで配置。これにより、行政内部の改革と地元企業へのアプローチが劇的にスムーズになりました。

こうした取り組みにより、市役所内では明確な定量変化が表れています。

  • 市役所の女性管理職比率: 2018年度の7.7%から2025年度には18.6%(2.4倍)へ増加
  • 男性の育休取得率: 100%を達成(平均取得日数も当初の約2週間から約1カ月へ大幅延伸)

衝撃事実3:社長が「女性社員」を演じる演劇研修と、本音をあぶり出す無記名調査

行政の改革と並行して推進されたのが、地元企業を巻き込んだ「ワークイノベーション」の取り組みです。市内の企業が「女性も働きやすく、働きがいのある職場」へ生まれ変わるため、極めてユニークな手法が取り入れられました。

その一つが、市内に開校した芸術文化観光専門職大学や、劇作家の平田オリザ氏率いる劇団(青年団)の協力を得て実施された「演劇的手法を使ったワークショップ」です。研修では、男性社長が女性従業員役を、女性従業員が男性社長役を演じるロールプレイングを実施。立場を入れ替えて演じ切ることで、普段の職場では言えなかったモヤモヤや他者への深い理解を、体感的に深く刻み込みました。

また、全従業員(非正規雇用を含む)を対象に、スマートフォンで10分程度で回答できる「無記名式の従業員意識調査」を導入しました。

「社長はその会社の社員さんが働きやすくて働きがいがあるだろうというふうに思っていることをちょっと実施するんですけど、結果が結構真逆のが来るんですね。で、そういうのを社長の方に報告言ったらかなりショックを受けられるんですけど、そこから立ち直って専門家とかを入れて社内の改革に乗り出している」

自動車内装パーツ等を製造する株式会社JBでは、社長が思い描いていた自社評価と真逆の厳しい調査結果が出たことにショックを受けつつも、社労士やジャーナリストなどの専門家を投入。管理職業務の徹底的な見直しや会議のスリム化を実施した結果、かつてはほぼゼロだった女性管理職比率が5割超へと急上昇しました。

さらに豊岡市は、優良企業を表彰する「あんしんカンパニー」認証制度を設計。経営者層から「ハードルが高すぎるので基準を緩めてほしい」と要望されても市は妥協を拒否し、代わりに「宣言カンパニー」「保育カンパニー」というステップアップ構造を新設しました。定量データだけでなく無記名意識調査(定性評価)の厳密な審査を維持したため、申請企業のうち認証をパスするのはわずか約2割という本気の質を担保しています。

現在では140を超える事業所が「ワークイノベーション推進会議」に参加し、地域ぐるみで職場環境のアップデートを競い合っています。


衝撃事実4:「おっさんたちの都合」を自白?70代男性や伝統行事が変わった瞬間

改革の波は、最も変化が難しいとされていた「地域コミュニティ」や「伝統行事」の場にも波及しました。

農村地域である福田区では、コロナ禍を契機に地域の自治や医療の仕組みを見直す「医療見直し委員会」を発足させました。その際、答申書を取りまとめた60代の男性委員長は、自戒を込めて次のような衝撃的な文言を公文書に書き残しました。

「おっさんたちが、おっさんたちの都合よくやりやすい仕組みを作っていた」

この痛烈な反省を出発点として、福田区では女性も参画できる組織構造への改編が断行されました。祭りや防災といった地域の取り組みにおいて、「女性=炊き出し・裏方」という性別による固定的役割分担を撤廃。性別ではなく個人の特技や能力に応じて担当を決める運用へと転換したのです。

また、出石(いずし)エリアの伝統行事である出石神社の「のぼり回し」では、古くから「男の子がいる家庭のみを回る」というしきたりが存在していました。しかし少子化が進み、伝統の存続自体が危ぶまれる中、地域内で「なぜ女の子は参加できないのか」という疑問の声が上がります。

伝統を諦めるのではなく時代に合わせてアップデートするため、女の子の参加を全面解禁。さらに地元の芸術文化観光専門職大学の女子学生たちも担ぎ手として招き入れました。伝統行事に若い女性たちが笑顔で躍動する光景は、今や地域の新しい日常となっています。

さらに池上温泉エリアの地域コミュニティでは、70代の自衛隊出身の地域会長が「断層の拒否をぶっ壊せ」と力強く発信し、自らジェンダー平等の研修会を主催。最も頑固と見られていたベテラン男性リーダーたちが、変革の力強い牽引役へと変わっていったのです。


衝撃事実5:週1日・1日2時間の「プチ勤務」と日本初の3者協定が介護・福祉を救う

女性の就労支援と、地元の深刻な人手不足(特に福祉・介護分野)を同時に解決する特効薬となったのが、「プチ勤務」の導入です。

子育てなどを理由に一度離職した女性が再就職を目指す際、いきなりフルタイムで復帰しようとすると離職率が高くなるという課題がありました。そこで豊岡市は、「週1〜2日、1日2〜3時間」という極めて短時間・少日数から無理なくステップアップできる仕組みを構築しました。

具体策は以下の通りです。

  1. 「お仕事カタログ」の作成: 行政やハローワークのガチガチとした求人票ではなく、子育て中の女性が最も気になるポイント(「子供の発熱時に急な休みが取れるか」「土日休みか」など)を一目で確認できるポップな独自ツールを作成。
  2. 業務の棚卸しと切り出し: 専門家が福祉・介護事業所などの現場に入り、正規職員の業務内容を徹底的に精査(棚卸し)。周辺業務や短時間で代替可能な業務を「プチ勤務用」として切り出しました。

この業務切り出しにより、正規職員は専門業務に集中できるようになり、事業所側の人手不全が劇的に解消。プチ勤務で復職した女性にとっても、家庭の状況に合わせて徐々に勤務時間を増やし、最終的にフルタイム復帰を果たす理想的なルートが確立されました。

この施策を力強く支えたのが、2019年に締結された「豊岡市 × 厚生労働省兵庫労働局(ハローワーク) × ワークイノベーション推進会議」による日本初の3者連携協定です。行政の縦割りを越えたこの強固なバックアップのもと、子育てママと企業を繋ぐ2日間のマッチングイベントでは、参加した72名の母親のうち19名がその場で採用決定に至るという驚異的な成果を叩き出しました。


まとめ:持続可能な地域社会をつくる「社会システムのアップデート」

豊岡市が推し進めてきた一連のジェンダーギャップ解消施策は、決して過去の伝統や地域の歩みを否定するものではありません。産業構造や人口構成が激変する現代において、時代に合わなくなった古いルールや社会システムを「最新版にアップデートする」取り組みです。

豊岡市の挑戦は、組織や地域が変わるために以下の3つのステップが不可欠であることを証明しています。

  1. 気づく(可視化): データや当事者の本音調査により、隠れた格差や無意識の偏見を数値とリアルな声で可視化する。
  2. 自分事にする: トップ自らの謝罪、演劇研修、無記名調査などを通じて、リーダーや構成員が「自分の課題」として痛感する。
  3. 行動する: ジョブローテーション、プチ勤務、3者協定、伝統行事のルール改定など、具体的かつ持続可能な仕組みへ落とし込む。

変革には痛みが伴い、時間もかかります。しかし、世代を超えて互いを否定せず対話を重ねることで、どれほど頑固に見えた地域であっても確実に変わり始めます。

あなたの街や職場には、無意識のうちに誰かの選択肢を狭め、未来の可能性を奪っている「当たり前」が放置されていませんか?

子育て支援で「財政逆転」が起きた真の理由とは?

単なるばらまきを超え、明石市・丹波篠山市から学ぶ「人と人の繋がり」をつくる

私が選挙前から伝えている子育て支援、少し現在地をまとめてみます。

1. 導入

 全国の多くの自治体が、歯止めのかからない人口減少や、子育て世帯の孤立という深刻な課題に頭を悩ませています。こうした危機感から、子育て支援施策の充実に乗り出す自治体が増加していますが、単に現金や給付金をばらまくだけの政策では、街の根本的な課題解決には至らず、持続可能な発展を描くことはできません。

 子育て支援政策は、ともすれば「特定世帯への一時的な手当」や「安易な人口増のための集客ツール」として消費されがちです。しかし、政策の本質を見誤ると、住民間の分断を引き起こしたり、自治体財政を一方的に圧迫して終わってしまったりする大きなリスクを抱えることになります。

 今回は、手厚い子育て支援と画期的な行財政改革を結びつけ「財政逆転劇」を成し遂げた兵庫県明石市と、地域密着型の伴走支援ネットワークを築き上げる兵庫県丹波篠山市の取り組みを徹底分析します。

 都市型改革と地域密着型モデルというアプローチの違いを超えて、真に持続可能な地域づくりに必要な「人と人との繋がり」を創出する行政戦略の真髄を解き明かします。

2. 「人口増加」は目的ではなく結果 

   「所得制限なし」が人と人の繋がりを守る

 子育て支援政策を設計する際、常に議論の的となるのが「所得制限を設けるべきか否か」という選択です。特定の生活困窮世帯に限定して財源を集中させる「生活困窮者支援」型のアプローチは、一見すると限られた予算の効率的な使い方に思えるかもしれません。

 しかし、そこには「支援を受ける側」と「受取対象外となり税を負担する側」の間に分断や対立を生み出しやすいという構造的なリスクが潜んでいます。

 これに対し、明石市が断行したのは「所得制限を一切設けない」ユニバーサルデザイン(全世代・全世帯一律)の施策展開です。医療費の無償化や第2子以降の保育料完全無料化などを、家計の所得水準にかかわらず一律に対象とすることで、一部の層に対する特別扱いという偏見を排除しました。「地域全体で子どもを育てる」という共通認識を形作ったことが、住民同士の感情的対立を防ぎ、地域コミュニティにおける人と人との繋がりを維持・強化することに大きく貢献したのです。

 ここで極めて重要なのは、子育て支援を「人口を増やすための手段」として履き違えないことです。「人口増加」を直接の目的に据えてしまうと、「人口が増えないなら効果がないので支援をやめる」という本末転倒な判断に陥りかねません。政策の本質は、目先のエクセル上の数値目標ではなく、助け合いのコミュニティそのものを維持・再生することにあります。

 「人口を増やすことを目的とするんだったら、人口増加が見込めない子育て支援政策はやらないという判断になる。しかし、明石が目指したのは人と人との繋がりに基づく優しい街づくりであった。」

3. 財政の逆転劇

  削減と税収増が生み出した「子育て投資」の好循環

 手厚いユニバーサル支援を展開するには莫大な財源が必要となりますが、明石市は徹底した行政改革による「支出削減」と、それが呼び込んだ「税収増・交付税増」の好循環によって財政の逆転劇を実現しました。

 まず最初に取り組まれたのは、他部門における徹底したコストの見直しとリソースの再配分です。2010年度から2020年度にかけて全庁的に130人の職員数を削減し、各種手当の引き下げや約2億円に上る事務事業の見直しを断行しました。さらに、公共施設の包括的管理委託やエネルギーの一括調達などを進めて経費を圧縮。ここで捻出された財源と人件費を活用し、専任組織である「子ども局」の職員数を133人増員(従来の3倍以上)させるという、劇的な配置転換を行いました。他部門の削り幅に匹敵するリソースを丸ごと子ども部門へ集中投下したのです。

 この強固な基盤のもとで展開された「5つの無料化」施策(下表参照)は、20代・30代の若年現役世代(子育て世代)の大幅な転入(社会増)を呼び込みました。明石市の社会増は2012年から始まり、2015年〜2020年の人口増加率は全国の中核市で1位を記録しました。この人口流入が、以下のような多角的な財政還元をもたらしました。

  • 個人市民税の増加 転入した現役世代の所得税収により、10年間で約20億円増加。
  • 固定資産税の増加 子育て世代の定住に伴う住宅取得や新築増加、それに伴う地価上昇による増収。
  • 事業所税の創設 人口増加により30万人を超えて中核市となったことで、2018年度から年間約17億円の「事業所税」が新設・課税可能に(市税総額は10年間で約39億〜40億円増加)。
  • 地方交付税(普通交付税)の自動増額 単に市税が増えただけでなく、人口増によって国の財政需要算定基準である「基準財政需要額」が引き上げられました。言い換えれば、街の規模拡大に伴って国から支給される普通交付税の算定枠が自動的に拡大し、単年度で約2.5億円の交付税増をもたらしたのです。

 明石市の財政担当者も、「手厚い施策が可能となったのは、行革による支出削減の効果よりも、人口増に伴う市税収入や地方交付税の増加というプラス効果が遥かに大きかった」と実感を語っています。投資がさらなる歳入を生む理想的な財政循環が立証されたと言えます。

明石市の主な「5つの無料化」政策

施策名対象・内容開始・実施時期
中学生以下の医療費無料化中学生までの医療費を無償化2013年〜
第2子以降の保育料完全無料化家計所得を問わず完全無料化2016年〜
明石こども広場誰でも無料で利用できる拠点2017年〜
中学校給食の無料化中学校の給食費無償化2020年
おむつの定期便全子育て家庭へ一律配送継続実施

4. 単なる食事提供ではない!全校区へ展開する「明石型子ども食堂」の真価

 民間ボランティアの善意に全面的に依存しがちな一般的な子ども食堂とは異なり、行政が明確な計画性とリーダーシップを持って全域展開を主導した点が「明石型子ども食堂」のイノベーションです。

 子ども食堂を民間の自主的な活動だけに任せておくと、立ち上げやすい地域とそうでない地域の間で「支援の偏り」が発生します。しかし、子どもたちの主たる移動・行動エリアは「自分が通う小学校区内」に限定されます。明石市は「支援を受けられない地域を作らない」ため、行政主導で市内全28の小学校区すべてに子ども食堂を配置する方針を打ち出しました。その結果、2018年度には全28小学校区(38箇所)への配置を達成し、2023年末時点では54箇所にまで拡大しています。

 計画的な全校区配置には、単なるアクセス保障にとどまらない戦略的メリットがあります。例えば「A校区の子ども食堂は水曜日」「隣接するB校区は金曜日」というように開校日を調整・補い合うことで、子どもたちが曜日ごとに近隣の食堂へ柔軟に通える相互補完ネットワークが完成するのです。

明石型子ども食堂は、以下の3つの主要機能を重視して運営されています。

  • 遊ぶ・学ぶ場  子ども同士が放課後に安心して集い、遊びや勉強を通じて健やかなコミュニティを育む空間。
  • 地域との交流の場  貧困対策という狭い枠組みにとらわれず、高齢者から若者まで地域の誰もが自由に集える多世代交流拠点。
  • 気づきの地域拠点(SOSの察知)  見守りの網を広げ、子どもや保護者が発する微細な悩みやSOSを早期に察知して専門機関へ繋ぐ予防的セーフティネット。

 行政は1回の食事提供につき2万円の運営助成金を交付する際、「地域との交流の場として機能させること」を必須要件に掲げています。この明確なビジョンに触発され、自治会やまちづくり協議会だけでなく、民間事業者も自発的に参加し始めました。地元のビジネスホテルが敷地スペースを会場として提供したり、地元出身の中小企業経営者が地域への恩返しとして自社物件を提供・運営したりするなど、行政のリーダーシップが民間の社会的投資を呼び込む素晴らしい好循環を生んでいます。

5. 子育て支援が「街全体の活性化」と「高齢者の住みやすさ」へ波及する

 明石市における子育て政策の成功は、子育て世帯という直接の受給者だけでなく、商店街や事業者、そして高齢者住民に対しても極めて大きなプラスの外部効果(波及効果)をもたらしました。

 手厚い支援を求めて20代・30代の若年現役世代が多数転入したことで、かつては人通りが少なく閑散としていた中心市街地や駅前商店街の風景が一変しました。歩行者や自転車の交通量が著しく増加し、子育て世帯の日常的な消費活動によって商店街区域への新規出店が相次ぐなど、地域経済全体が劇的な活性化を遂げたのです。

 この「街全体の活気」は、直接的には子育て支援制度を利用しない高齢者にとっても、「賑やかで買い物がしやすく、住み心地が良い街」という大きな恩恵をもたらします。仮に子育て支援が一部の層に対する「不公平な税金の配分」にとどまっていたならば、「なぜ子育て世代ばかり優遇するのか」という世代間対立を引き起こしていたでしょう。しかし、子育て投資が地域経済を潤し、街全体の価値を底上げしたことで、高齢者や事業者にとっても共通の利益となり、世代間の分断を見事に回避することに成功したのです。

6. 地域に根ざした「切れ目のない支援ネットワーク」の広がり

 「丹波篠山市の取り組み」

 大規模な行財政改革とユニバーサル施策で急速な人口増を成し遂げた都市型の明石市に対し、豊かな自然と地域コミュニティを活かして深みのある伴走型支援を実践しているのが兵庫県丹波篠山市です。自治体の規模や財政状況は異なれど、「政策の中心に人と人との繋がりを置く」という根本思想は両者に共通しています。

 丹波篠山市では、行政、社会福祉協議会、地域住民が一体となり、妊娠前から学童期、青年の成長に至るまでをカバーする多層的なセーフティネットを構築しています。

  • 「こども家庭センター」の一元化体制(令和7年4月1日開所)  これまで別組織として運用されていた母子保健(健康課:丹南健康福祉センター「ふたば」)と児童福祉(社会福祉課児童福祉係:市役所第2庁舎)の機能を統合し、令和7年4月1日に「こども家庭センター」を開設。保健師、助産師、家庭児童相談員らがワンチームとなり、妊娠・出産期から子どもが18歳になるまで、発達・育児・学校生活・ヤングケアラー・児童虐待などのあらゆる相談に「切れ目のない支援」をワンストップで提供します。
  • 丹波篠山市ファミリーサポートセンター(社会福祉協議会)  市内在住・在勤で概ね0歳から小学6年生までの子どもを持つ「依頼会員」と、自宅等で子どもを預かる「協力会員」(要講習会受講)を結ぶ会員制の相互援助ネットワーク。「仕事で送迎が間に合わない」「受診やリフレッシュ」など多角的なニーズに対応します。 謝礼体系は一般保育時間内(7:30〜18:30)で350円/30分、時間外や土日祝・送迎は加算(50円/30分増)が設定され、第2子以降は半額という利用しやすいルールが整備されています。万一の事故に対しても、センター側が全額費用を負担して補償保険に加入する万全の体制をとっています。
  • 地域密着型の一時預かり&保育ボランティア 生後6ヶ月〜就学前を対象とした月1〜2回実施の「子ども一時預かりかんがるー」や、各種講習会・サークル活動時の託児を担う保育ボランティア「コアラ」など、地域住民の温かい手助けを組織化した柔軟なサポート構造が機能しています。

 このように、大都市的な数値目標に依存せずとも、一人の子ども、一つの家庭に寄り添う「繋がりの網目」を密に編み上げていくアプローチは、全国のあらゆる自治体にとって極めて汎用性の高いモデルと言えます。

7. 結論・まとめ

 明石市と丹波篠山市という2つの先進事例が明確に示しているのは、子育て支援の本質とは「単なる給付金や現金の支給」でもなければ、「他自治体から住民を奪い合うための人口誘致合戦」でもないということです。

子育て支援の真の目的とは、施策を通じて地域社会における「人と人との繋がり」を再生・強化し、世代を超えて互いを支え合う新しい市民文化を創出することにあります。

 所得制限を設けないユニバーサルデザインによる「分断の回避」、全小学校区への子ども食堂配置による「孤立の防ぎ込み」、そして妊娠前から18歳まで伴走し続ける「切れ目のない相談体制」。これらはすべて、コミュニティの繋がりを太く育むための緻密な行政戦略です。そして、そうした温かく信頼に足るコミュニティが築かれたからこそ、持続可能な人口増加、税収増、そして街全体の活性化という「素晴らしい結果」が後からついてきたのです。

私たちが暮らす街やコミュニティでは、住民同士の対立や孤立を防ぎ、誰もが安心して暮らせる「優しい街づくり」のために、明日からどのような人と人との「繋がり」をデザインすることができるか?が大切だと考えます。

孤独・孤立対策推進法と地域社会の新しい支援体制に関して

1. 孤独・孤立問題の社会的背景と「孤独・孤立対策推進法」の法的位置づけ

1.1 日本における孤独・孤立の現状と構造的要因

 現代日本における孤独・孤立問題は、単なる個人感情の揺らぎや道徳的課題にとどまらず、社会構造の変化に伴って急速に深刻化している重大な政策課題である。

 OECD(経済協力開発機構)が2005年に公表した国際比較データによると、日本は「家族以外の人との交流が全くない、またはほとんどない人」の割合が15%を超えており、先進国の中で突出して高い数値を示している。これは、個人主義的な社会風土とされるアメリカの約3%と比較しても約5倍に達する規模である。アメリカにおいては貧困層であっても友人関係が一定程度維持されている実態が見られるのに対し、日本社会は「お金もない上に友達もいない」という、生活基盤と社会的関係性の双方が同時に途絶する極めて苦しく孤立しやすい構造的脆弱性を抱えている。

 この背景には、日本における世帯構成の劇的な変化が存在する。1986年時点では「夫婦と未婚の子ども」からなる世帯が全体世帯の4割以上を占め、3世代同居なども多く見られたが、その後単独(一人暮らし)世帯が急速に増加した。2022年には単独世帯が全世帯構成の中で最も多い類型となり、一般世帯の分類においては約4割に達している。

 これに加えて、急速な高齢化の進展に伴い、病気や寝たきり、認知症の広がり(65歳以上の5人に1人と推定)が重なることで、世帯内や地域社会からの孤立がより一層深まる要因となっている。高齢夫婦世帯等においても、看護や介護、認知症への対応の中で地域社会から遮断され、一人暮らし以上の重い孤独・孤立状態に置かれるケースが増加している。

1.2 従来の福祉政策(申請主義・課題解決型)の限界

 これまで国や地方自治体が推進してきた行政・福祉政策は、個人や家計を基本単位として最低限度の生活や基本的人権を保障することに主眼が置かれてきた。代表例である生活保護制度などにみられるように、困窮状態に陥った後に本人が申請を行う「申請主義」や、発生した課題に対して金銭給付や制度的措置を行う「課題解決型」のアプローチが中心であった。

 しかし、こうした金銭給付や制度的措置(ハード面)を中心とした従来型アプローチでは、経済的困窮という「資金の貧困」が解消されたとしても、コミュニティや他者との関わりが途絶えたままスーパーマーケットと自宅を往復するだけの生活が続けば、当事者が抱える「関係性の貧困(ソフト面・生きづらさ)」や孤独による苦痛は解消されない。これまでの行政姿勢は「友人関係やサークル等のつながりは個人の自由であり行政は関与しない」という前提に立っていたが、それは人々が自発的に他者とつながり合える社会基盤が存在していた時代の発想であり、つながり自体が希薄化した現代社会においては、従来型福祉の限界が明白となっている。したがって、金銭的保障だけでなく、地域コミュニティでの居場所創出や、声を上げられない困窮者へ届けるアウトリーチ(予防型支援)へのパラダイムシフトが不可欠となっている。

1.3 「孤独・孤立対策推進法」の成立・基本理念と「孤独」「孤立」の定義

 孤独・孤立問題に対し、世界で最初に国家レベルの対策を打ったのはイギリスであり、2018年に世界初の「孤独担当大臣」を任命した。日本においてもこれに続き、2021年に内閣官房へ孤独・孤立対策担当室を設置するとともに世界で2番目となる「孤独・孤立対策担当大臣」を任命した。その後、施策の集大成として「孤独・孤立対策推進法」が成立し、2024年(令和6年)4月1日より施行された。

 同法および関連政策において、「孤独」と「孤立」は以下のように明確に区別・整理されている。

 「孤独」とは、個人が主観的に感じる精神的な状態であり、寂しさなどの感情や、一人で内省し自己を振り返る時間といった側面も含まれる概念である。

 「孤立」とは、社会とのつながりや助けがない、あるいは少ない状態を指す客観的な状態である。「孤立(isolated)」の語源が「島(island)」にあるように、社会や本土から隔絶された状態を意味しており、政策的介入によって排除・軽減すべき主たる対象は社会的に作り出されたこの「孤立」の状態であるとされる。当事者の置かれる状況は多様であり、「孤立しており孤独でもある場合」「孤立していないが孤独を感じている場合」「孤立しているが本人は孤独を感じていない場合(周りの家族等が困難を抱えているケース含む)」など多岐にわたる。

 孤独・孤立対策推進法の基本理念では、「孤独・孤立に悩む人を誰一人取り残さない社会」「相互に支え合い、人と人とのつながりが生まれる社会」を目指すことが掲げられている。施策の基本姿勢として、当事者や家族の意向を尊重しながら継続的な支援を行い、他者や社会との関わりを通じて孤独・孤立状態から脱却し、日常社会生活を円滑に送ることで自尊感情(自分には存在する価値があるという感覚)を取り戻していくことを重要視している。

2. 孤独・孤立が心身に与える影響と科学的根拠

2.1 公衆衛生上のリスクと身体・精神的影響

 孤独・孤立は単なる個人の心情的・道徳的問題ではなく、公衆衛生上の重大なリスクとして位置づけられている。公衆衛生学および医学的知見において、孤独・孤立から生じるストレスは免疫機能の低下、認知機能の鈍化や認知症の発症・進行、高血圧などの身体的・精神的疾患を著しく引き起こすことが立証されている。特に配偶者を亡くして孤立した高齢者に認知症が急激に進行する事例などにみられるように、認知症と孤立との間には強い相関関係が存在する。

 公衆衛生上の共通認識として、「孤独による健康影響は1日15本の喫煙に匹敵し、その悪影響は肥満よりも大きい」とされる。すなわち、酒やタバコ、肥満以上に「最大の健康リスクは孤独である」という点が学術的・医学的に確立されている。

2.2 幸福度と人間関係の質に関する学術的知見

 人間の幸福度と健康を決定づける要因について、1938年から継続して実施されているハーバード大学の「ハーバード成人発達研究」は極めて重要な科学的エビデンスを提供している。同研究は、ハーバード大学の学生と近隣の貧困地域の若者という対照的なグループを追跡調査したものであり、80年以上の追跡を経て得られた結論は、「人間の幸福と健康を決定づける最大要因は、財産や名声、がむしゃらに働くことではなく、良き人間関係である」という点であった。

 同研究から導き出された主な教訓は以下の3点である。

(1)人とのつながりは健康に有益であり、孤立は命取りとなること。家族や友人、地域コミュニティとしっかりつながっている人ほど幸せで身体的に健康であり、長生きする。

(2)重要なのはつながりの「数」ではなく、身近な人との「関係の質」であること。困った時に相談でき、助け合える「親友」のような信頼関係が存在することが脳や身体を守る鍵となる。

(3)良き人間関係は身体の健康だけでなく、脳の機能(認知機能の維持や認知症予防)をも守ること。

 また、イギリスの人類学者ロビン・ダンバーの研究によれば、人間の脳のサイズから規定される知人の上限(ダンバー数)は150人程度とされる。膨大な数の友人を確保する必要はなく、人口減少社会にあっても、身近な数少ない人々との質の高い信頼関係を維持・形成することができれば、個人および社会の幸福度を高めることが十分に可能であると提示されている。

3. 孤独・孤立対策における多層的支援構造(国・兵庫県・地方自治体・地域現場)

3.1 国の取り組みと施策

 国は孤独・孤立対策推進法に基づき、「孤独・孤立対策の重点計画」を策定し、毎年度必要な見直しを行いながら総合的な施策を推進している。

 具体的な取組の一環として、孤独・孤立対策強化月間中、令和8年5月1日(金曜日)から6日(水曜日)までの期間において「孤独・孤立相談ダイヤル #9999」を開設するとともに、ウェブサイト「あなたはひとりじゃない」等を通じたチャット相談やメール相談の支援体制を展開している。

3.2 兵庫県における推進体制

 広域自治体である兵庫県では、社会福祉法人、NPO、協同組合、民間企業、地方公共団体などの多面的な支援機関の連携を促進するため、令和7年度(2025年度)に「兵庫県版孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」を設置した。

 また、同プラットフォームの設置に伴い、令和7年11月には「キックオフフォーラム」を開催するなど、官民のネットワーク形成と支援ノウハウの共有、施策の周知を図る広域的な連携支援策を展開している。

3.3 地方自治体(市町村)の役割と「縦割り行政」からの脱却

  住民に最も身近な市町村は、孤独・孤立対策の実践的中心としての役割を担う。孤独・孤立対策推進法において、市町村は関係機関や民間団体等で構成される「孤独・孤立対策地域協議会」を設置することが努力義務とされている。

 従来の行政体制においては、「高齢分野」「障害分野」「生活困窮分野」「子ども分野」という主に4つの福祉分野ごとに「縦割り行政」が存在し、さらに支援を行う社会福祉法人等の民間団体側も自らの専門分野に閉じる縦割り構造が存在していた。しかし、実際の困窮世帯や孤立当事者は、不登校と親の困窮、障害と高齢介護などが複雑に絡み合っており、SOSがどの窓口に出されるかは予測できない。

 そのため、縦割りの弊害を打破し、これら4分野の協議体を横軸でつなぐ「地域共生連携ネットワーク」や「重層的支援構造」の構築が必要不可欠である。例えば広島県三原市の事例に見られるように、「高齢分野」「障害分野」「生活困窮分野」「子ども分野」の情報を横断的に共有・協議するネットワークを形成することが、支援の漏れを防ぎ、包括的なセーフティネットを構築する上で極めて有効とされる。

3.4 官民の水平的連携と「予防・アウトリーチ型」支援の導入

 公権力を持つ自治体は公平・画一的な手続きを得意とする反面、個々の事情に応じたセンシティブかつ臨機応変な対応を苦手とする側面がある。一方で、NPOや社会福祉法人、ボランティア団体等の民間組織は柔軟な個別支援を得意としている。したがって、行政が民間を下請け化するのではなく、行政と民間が対等・平等な関係に基づく「水平的連携」を組むことが不可欠である。

 さらに政策姿勢として、従来の「窓口で待つ申請主義(課題解決型)」から、自ら声を上げられない孤立者や潜在的困窮者に対して積極的にアプローチする「予防・アウトリーチ(訪問支援)型」の公共政策への転換が求められている。生活困窮者自立支援法等の理念と同様に、深刻な事態へ至る前に早期発見・介入を行う姿勢が重要となる。

4. 丹波篠山市における地域セーフティネットと実践的取り組み

4.1 支援・相談窓口と「TALKの法則」・傾聴アプローチ

 兵庫県丹波篠山市では、地域におけるセーフティネットの中核として地域包括支援センターを設置している。東部地域包括支援センター(篠山・城東・多紀地区担当、城東公民館内)および西部地域包括支援センター(西紀・丹南・今田地区担当、丹南健康福祉センター内)が配置され、高齢者の身体機能低下や人との関わり減少に伴う不安、抑うつ、生きがい喪失を防ぐ見守りや相談対応を行っている。

 高齢者の「生きていても仕方ない」「迷惑をかけるだけ」といった発言や、身近な地域住民に吐露される「生きとるのがいやになった」「生きとってもしゃあない」といった切実な語りかけ、強い不安や落ち込みは、自殺リスクの高まりを示す重要なサインである。市では自殺予防のためのアプローチとして「TALK(トーク)の法則」の周知を行っている。

TALKの法則の具体的な構成は以下の通りである。

T(Tell 話す):心身の不調や辛い心境について話す・声をかける

A(Ask たずねる):相手の状態や気持ちをたずねる

L(Listen 聴く):否定や評価をせず相手の訴えをじっくり聴く

K(Keep safe 安全を守る):安全を確保し守る

また、相談や傾聴の現場においては、教わるような姿勢と共感を持って聴くことが求められる。相手の気持ちを引き出す際には、「Why(なぜ)」と問い詰めるのではなく、「How(どんな)」と尋ねることで、「はい/いいえ」で終わらないオープンクエスチョン(開かれた質問)となり、当事者が辛い胸のうちを語りやすくなり、気持ちの軽減に寄与するとされている。

4.2 地域における多様な「居場所づくり」(認知症カフェ・セミナー)

  丹波篠山市内では、高齢者や介護者、地域住民が孤立せずにつながりを維持できるよう、多角的な「居場所づくり」と啓発活動が推進されている。人口減少下の地域社会におけるこうした居場所づくりは、単に大人数を集める大きなイベントではなく、前述の「ダンバー数」が示すように「顔の見える少人数の質の高い信頼関係(親友のような関係)」を構築・維持する場として極めて高い機能を発揮している。

(1)西紀南地区介護セミナーの実践 令和8年1月17日に開催された西紀南地区介護セミナー(参加者26名)では、認知症予防の講話を通じて「健康を保つこと、何歳になっても脳・体を動かすこと、外出しておしゃべりをすること」の重要性が伝えられた。また、還付金詐欺の事例を寸劇形式で分かりやすく紹介し、楽しみながら詐欺被害防止と孤立予防の啓発が行われた。

(2)新しい認知症カフェ「燈火(ともしび)cafe」 篠山口駅内のイノベーターラボにおいて、令和8年1月17日に新たな認知症カフェ「燈火 cafe」がオープンした(代表:高野氏)。「燈火」の名称には、介護の悩みや孤立感を抱える人の光となり、集う一人ひとりが互いを照らし癒し合える場所にしたいという思いが込められている。今後は交通手段の検討や多世代交流など、誰もが立ち寄りやすい環境整備が進められている。

(3)市内で展開される認知症カフェ等の拠点一覧 市域では、認知症当事者や介護家族、地域住民が気軽に立ち寄れる少人数の居場所として、以下の各種カフェ・つどいが定期開催されている。問い合わせ窓口は、丹波篠山市役所長寿福祉課高齢支援係、ならびに東部・西部地域包括支援センターが担っている。

(一)ホッと・ひといきカフェ(会場:丹波篠山市民センター クリエイティブカフェ)

(二)たきたきカフェ(会場:東雲コミュニティセンター)

(三)りんごカフェ(会場:西紀老人福祉センター)

(四)カフェやすらぎ(会場:古市コミュニティセンター)

(五)かやのみカフェ(会場:日置ほっとステーション)

(六)きく・かたる寺カフェ(会場:大國寺 安泰庵)

(七)燈火 cafe(会場:篠山口駅内 イノベーターラボ)

(八)認知症の方と介護をされている家族のつどい(会場:丹波篠山市民センター クリエイティブカフェ)

4.3 不登校・ひきこもり当事者等への多層的居場所支援

  丹波篠山市では、高齢者支援にとどまらず、不登校やひきこもり状態にある子ども・若者・大人およびその家族の多様なニーズに対応するため、当事者の属性や支援段階(児童生徒の学校復帰・専門相談、全世代の心の居場所や交流、障がい者のペースに合わせた地域活動、就労支援や各種資金貸付等の生活再建相談)に応じた多層的なセーフティネット体制を構築している。

(1)丹波篠山市教育支援センター「ゆめハウス」(丹波篠山市宮田、西紀支所4階) 学校に行きにくい子どもたちや学校生活に馴染みにくい児童生徒を対象に、学校復帰や社会的自立に向けた多様な活動を実施。毎月第2木曜日の午前中(9時から12時)にはスクールカウンセラーによる専門相談を行っている。

(2)NPO法人「結(ゆい)」(丹波篠山市東吹) 不登校やひきこもり状態にある方の「心の居場所」として、「こころが元気になること」を目標に当事者が集う「しゃべり場」や、子どもたちの遊び場である「遊び村」を運営し、柔軟な個別支援を行っている。

(3)障害者地域活動支援センターほっと(丹波篠山市東沢田) 障がいのある人が自分のペースで参加できる居場所であり、各種相談支援、趣味活動、レクリエーションなどを提供している。

(4)丹波篠山市社会福祉協議会(丹波篠山市網掛、丹南健康福祉センター内) 社会参加や人との関わりにハードルを感じている人に対し、社会的ひきこもりの就労支援事業(社会復帰に向けたきっかけづくりや就労の場の提供)を実施。また、経済的課題や生活課題を抱える世帯に対する「生活福祉資金貸付事業」「緊急貸付資金事業」、日常生活上のあらゆる相談に応じる「心配ごと相談所事業」など、生活再建に向けた包括的な相談・貸付・支援プログラムを展開している。

(5)その他の比較的最近になって一般化してきた居場所としては、インターナショナル デモクラティックスクール まめの木 丹波篠山市教育委員会の認定フリースクール、PINEAPPLE SCHOOL 丹波篠山市教育委員会が正式に認定しているフリースクールで週1回受け入れ中、児童発達支援事業所のわかば、児童発達支援センターとして指定管理事業所、同じく児童発達支援事業所の児童支援センターえがおも不登校やひきこもりの支援を行っている。

4.4 高齢者・地域住民の役割創出と幸福な地域社会の展望

 丹波篠山市における一連の実践は、地方自治体における標準的かつ先駆的なモデルケースとして評価できる。これらの取り組みが示しているのは、住民を単に「保護対象として支援を提供する」ことにとどまらず、地域全体で「高齢者や生きづらさを抱える人々が役割を持ち、安心して参加できる居場所」を構築することの決定的な重要性である。

 人間は他者との関係性の中で役割を果たし、感謝されることで自尊感情と生きがいを獲得する。学術的知見が示すように、人口減少社会においても身近な人々との「質の高い関係性」を再構築することは可能である。行政、民間支援団体、そして地域住民が一体となり、予防的アプローチと多層的な居場所支援を継続していくことが、孤独・孤立を予防し、誰もが幸福感を実感できる持続可能な地域社会の創造へと確実につながっていく。

【丹波篠山救急医療フォーラムから読み解く】私たちが知っておくべき「地域医療と最期の備え」に関する真実4選

「急に家族の体調が崩れたら、救急車を呼べば地元の病院に運ばれ、すぐに助けてもらえる」     私たちは無意識にそう信じ込んでいないでしょうか?

2026年10月8日に開催された「丹波篠山救急医療フォーラム」では、少子高齢化の進展、医療従事者の不足、そして高止まりする救急需要という波に直面する地域医療の切実なリアルが明かされました。急激な社会構造の変化の中で、私たちが長年「当たり前」と思ってきた救急医療のあり方は、大きな転換期を迎えています。

地域医療の持続性を守り、自分や大切な家族が最期まで自分らしく安心して暮らすために、私たちは何を知識として持っておくべきなのでしょうか。フォーラムで共有された最新のデータや議論から見えてきた、今すぐ知っておきたい4つの重要な真実を解き明かします。


1. 学童へのインフルエンザ予防接種が「高齢者の命」を救っていた?歴史が教える予防の力

最初の真実は、地域社会における「予防」が、めぐり巡って救急医療の現場や高齢者の生命にいかに甚大な影響を与えるかという歴史的事実です。

  • 1960年代の学童集団接種とその効果 日本で1960年代から開始された小・中学生(学童)へのインフルエンザワクチン集団接種は、学校内での感染蔓延を防ぐだけでなく、地域全体への広がりを遮断し、結果として高齢者のインフルエンザによる「超過死亡率」を著しく低下させました。
  • 1994年の集団接種中止と広がった代償 しかし、1994年に学童への集団接種が中止されると、高齢者の超過死亡率は再び急上昇しました。この時期に失われた命のほとんどが高齢者に集中していたのです。

この歴史的経緯は、「個人のワクチン接種や健康管理といった予防措置」が、めぐり巡って救急需要の逼迫を防ぎ、最も脆弱な高齢者の命を守るという構造を鮮明に示しています。

「日頃のがん検診や予防接種、生活習慣病の管理が徹底されることで、急変による不要不急の救急搬送や重症化が抑えられ、真に緊急性の高い医療資源を守ることにつながる」

 予防と救急医療は切り離せない一体のものです。


2. 「救急車=地元の病院へ」は当たり前じゃない?増える市外搬送と地域医療のリアル

「救急車に乗れば、当然地元の慣れ親しんだ病院に運ばれる」という従来の固定観念も、現実のデータをもとにアップデートする必要があります。

丹波篠山市における2025年の救急実績と、地域の基幹病院が抱える医療体制の現状は以下の通りです。

  • 高止まりする救急需要と高齢者割合:2025年の救急出動件数は2,429件(1日あたり約6.7件)と高止まりしており、救急搬送された人の約69%(1,574人)が高齢者を占めています。
  • 市外搬送の増加傾向:搬送先データを見ると、近年は市外への搬送が大幅に増加しており、2023年には過去の基準を大きく超えて市外搬送が市内搬送を逆転する事態も発生しました。2025年時点でも管内(市内)搬送が54.2%(1,231人)に対し、管外(市外)搬送が45.8%(1,041人)と、約半数が市外へ運ばれています。また、小児救急に関しては市内の受け入れ体制が困難なため、市外の「兵庫県立丹波医療センター」へ全日全面依存している状態です。
  • 地元基幹病院の体制変更:ささやま医療センターでは、看護師23名減など人員が20%削減された影響で、平日夜間の救急受け入れを制限せざるを得ず、休日診療の強化などで対応を行っています。

こうした構造課題に対し、地元の岡本病院などが提唱するのが「背伸びしない地域救急」という概念です。

すべての地方病院が高度高次救急(心筋梗塞に対するPCI治療や重症呼吸不全に対するECMO運用など)の設備と人員を抱え込もうとすれば、医療スタッフの過重労働とバーンアウトを招き、地域医療そのものが破綻してしまいます。

そのため、超急性期の重症患者は最初から三田市民病院や兵庫県立丹波医療センターなどの高度高次医療機関へ直送するプロトコルを整備し、地元の病院は身の丈に合った現実的な救急対応と回復期ケアに専念する――この役割分担と広域連携こそが、地域の命を守る戦略的アプローチなのです。


3. 高齢者の心停止救命率は約1%?

 「延命」を超えた現実的なACP(人生会議)とDNAR

救急現場において、最もシビアで倫理的な判断が求められるのが、高齢者の心肺停止(CPA)への対応です。

  • 極めて低い社会復帰率の現実:75歳以上の高齢者が心停止を起こした場合、後遺症なく社会復帰(1か月生存・回復)できる確率は約1%ときわめて低いのが現状です(全体の1か月心肺蘇生後生存率も2023年の5.56%から2025年には1.69%へ低下)。
  • 過剰で侵襲的な延命の回避:救急隊や医療陣が本人の意向に沿わない過剰な胸骨圧迫や人工呼吸を行う事態を避けるため、「DNAR(無理な延命蘇生処置を望まない意思表示)」の共有と、事前の対話プロセスである「ACP(アドバンス・ケア・プランニング/人生会議)」の現場運用が急務となっています。
  • 色分けによるアクションプロトコルの提案:介護施設や救急隊が現場で迷わず迅速な対応をとれるよう、利用者の意向を「レッド(フル蘇生実施)」「イエロー(心肺蘇生は15分まで・AEDショック2回まで等の制限的介入)」「グリーン(穏やかな看取り/DNAR)」のように色分けして可視化する現実的な運用ルールが提案されています。

ACP(人生会議)を行うことは、「縁起が悪いこと」でも「命を諦めること」でもありません。「最期まで自分らしく生き、万が一のときに遺される家族や医療・介護チームが苦しい判断に迷わないための『お守り』」なのです。


4. 「かかりつけ医」の有無で警察介入や数万円の自己負担が発生?最期を自宅で迎えるための仕組み

「慣れ親しんだ自宅で穏やかに最期を迎えたい」と望む方が増える一方で、自宅での急変や自然死が発生した際、「かかりつけ医」がいるかどうかで遺族の手続きと経済的・精神的負担に決定的な違いが生じます。

項目かかりつけ医がいる場合かかりつけ医がいない場合
法律上の扱い通常の診療・訪問診療の延長「異状死」扱いとなり、法律に基づき警察の立ち会いが必要
診断・検案の流れ医師が診察し「死亡診断書」を作成警察立ち会いのもと、警察指定医による「検案」を実施
警察の介入警察を呼ぶ必要はありません事件性の有無を捜査・確認するため警察が介入
費用の種類と負担医療保険等の範囲内(保険診療)で費用が抑えられます自由診療(検案手続き)となるため、ご遺族に数万円の「検案料」が発生

かかりつけ医がいない状態で突然死や自宅での自然死を迎えると、法律上「異状死」として扱われ、事件性の有無を確認するために警察が捜査に入ることになります。検証や検案の手続きに追われ、数万円の「検案料」が自己負担となるばかりか、遺族にとって大きな精神的ショックとなりかねません。

日頃から病状や健康状態を把握している「かかりつけ医」がいれば、警察を介することなく、通常の診療の延長として迅速に死亡診断書が発行され、自宅で穏やかにお別れの時間を過ごすことができます。

さらに、こうした医療・介護の連続的なケアをデジタルで支えるため、個人の健康・医療データをかかりつけ医、ケアマネジャー、救急隊、病院間で安全かつスムーズに共有するPHR(Personal Health Record/「ヘルスケアパスポート」「すこやかパスポート」)の導入と統合が進められています。


まとめ:ワンチームで挑む地域医療の未来

これからの地域医療は、「体調が悪くなったらとりあえず救急車を呼べば解決してくれる」という従来の依存型モデルのままでは立ち行かなくなっています。

  1. がん検診や予防接種による「病気の予防と早期発見」
  2. 日常の健康変化を相談できる「かかりつけ医」の確保
  3. PHR(ヘルスケアパスポート)による医療・介護・救急の情報共有
  4. 元気なうちから最期の希望を話し合う「ACP(人生会議)」の実践

これら4つの要素をシームレスに統合し、行政・医療機関・介護事業者・消防、そして市民一人ひとりが「ワンチーム」となって取り組むことこそが、地域の救急医療を守り、自分や大切な人の尊厳ある最期を実現する唯一の道です。

あなたは万が一のとき、どこで、どのように過ごしたいですか? 今日、ご家族やかかりつけ医と「これからの暮らしと最期の備え」について話してみませんか。

違うままで、同じまちにいられる。

まちの中で、音楽をかけながら、一心に踊っている女性を見かけることがあります。

私は通りかかると、
「こんにちは」
と声をかけたり、手を振ったりします。

すると、とても素敵な笑顔で、手を振り返してくれます。

私のところの建物の前で踊っている時には、

「ここなら大丈夫やで。踊ったらいいよ」

と伝えています。

音楽を聴いて、身体を動かす。

それがその人にとって楽しい時間なのかもしれないし、心を落ち着かせる時間なのかもしれません。

その理由を、私たちがすべて理解する必要はないと思っています。

ただ、まちの中では時々、冷たい視線を向けられたり、心配されて警察に連絡されたりすることもあるようです。

もちろん、大きな交差点では交通の安全があります。

歩行者や車の通行を妨げるようなことがあれば、安全を守るための対応は必要です。

だから私は、何でも自由でいいと言いたいわけではありません。

でも、ここで少し考えたいのです。

「危険だからやめてもらう」のと、「自分たちと違うから遠ざける」のは、同じではありません。

見慣れない行動をしている。

みんなと違うことをしている。

それだけで、私たちはいつの間にか、

「変わった人だ」
「怖いな」
「ここにいない方がいい」

と感じてしまうことがあります。

でも、本当にそうでしょうか。

踊る人がいてもいい。

歌う人がいてもいい。

一人で笑っている人がいてもいい。

少し人とは違う時間の過ごし方をする人がいてもいい。

誰かに危害を加えているわけでもなく、周囲の安全を脅かしているわけでもないのなら、

「今日も楽しそうに踊っているな」

そう思って通り過ぎられるくらいの地域であってもいいのではないでしょうか。

私は、「共生社会」という言葉をよく耳にします。

でも共生社会とは、みんなが同じように振る舞える社会ではないと思います。

むしろ、違う人が、違うままで、同じ地域の中にいられること。

それが共生なのではないでしょうか。

制度を整えることも大切です。

相談窓口をつくることも、福祉サービスを充実させることも必要です。

でも、そのもっと手前にあるものがあります。

目の前にいる人を、

「ちょっと変わっているから」

というだけで排除しないこと。

声をかけてみること。

手を振ってみること。

そして、「ここにいてもいいよ」と伝えられること。

私は市議会議員である以前に、このまちで暮らす一人の市民として、

そんな地域であってほしいと思っています。

今日も彼女に手を振り「素敵な踊りですね。」と声をかけました。

すると、いつものように頷きながら満面の笑顔で手を振り返してくれました。

それを見て思いました。

もしかすると、地域共生というのは難しい言葉ではなく、

誰かの笑顔に、こちらも笑顔を返すことから始まるのかもしれません。

【丹波篠山市】放課後児童クラブ利用料改定に見る、子育て支援と自治体財政のリアルな葛藤:知っておくべき4つの視点

【丹波篠山市】放課後児童クラブ利用料改定に見る、子育て支援と自治体財政のリアルな葛藤:知っておくべき4つの視点

仕事と子育ての両立を支える存在として、働く保護者にとって欠かせない「放課後児童クラブ(学童保育)」。子どもたちが放課後を安全に過ごす大切な居場所ですが、今、その利用料をめぐる大幅な値上げ案が自治体で大きな議論を巻き起こしています。

昨今の物価高やエネルギー価格の高騰は、家庭の食費や光熱費を直撃するだけでなく、公共施設や行政サービスの運営コストも大きく押し上げています。そうした中、兵庫県丹波篠山市において、放課後児童クラブの利用料改定に関する条例改正案(議案第74号)が提起されました。

子育て支援の充実を掲げながらも、いかにして持続可能な施設運営を維持していくのか。丹波篠山市で起きている議論を軸に、自治体財政と子育て世帯が直面するリアルな課題と、私たちが知っておくべき4つの視点を分かりやすく解説します。

1. 17年ぶりの据え置き終了 夏休みの利用料が「月6,000円から1万円」へ一気に引き上げ

丹波篠山市の「放課後児童健全育成事業の実施に関する条例の一部を改正する条例案(議案第74号)」では、放課後児童クラブの利用料改定が示されています。

同市の児童クラブ利用料は、平成21年(2009年)4月1日の条例施行以来、保護者の負担を軽減する観点から長年にわたり据え置かれてきました。しかし、近年の支援員等の人件費上昇や物価・エネルギー価格の高騰に伴い、施設の管理・運営費用が増大。事業の質を確保し、持続的かつ安定的に継続するため、令和9年(2027年)4月1日より利用料の改定(受益者負担の適正化)が行われる方針です。

今回の改定において、最もインパクトが大きいのが夏休み期間などの負担増です。通年利用(月〜金)の場合、通常の月は6,000円から7,000円への値上げにとどまりますが、8月に限っては現行の6,000円から10,000円へと約1.6倍に急増します。さらに、通年利用だけでなく「夏休みや春休みなどの長期休業期間のみ利用する家庭」への影響も大きく、例えば7月の月〜金利用は2,000円から4,400円へと2倍以上の引き上げとなります。

主な利用料改定案の比較(児童1人あたり月額)

利用区分利用月現行額改正案
通年利用(月〜金)各月(8月を除く)6,000円7,000円
通年利用(月〜土)各月(8月を除く)8,400円9,200円
通年利用(月〜金)8月(夏休み)6,000円10,000円
通年利用(月〜土)8月(夏休み)8,400円12,300円
長期休業のみ(月〜金)4月(春休み)2,000円2,800円
長期休業のみ(月〜金)7月(夏休み前)2,000円4,400円
長期休業のみ(月〜金)8月(夏休み)6,000円10,000円

※長期休業期間のみ利用の月〜土利用や、冬休み(12月・1月)等の料金もそれぞれ引き上げが予定されています。

学校が長期休みに入り、朝から夕方まで長時間の保育が必要となる夏休みは、給食がないためにお弁当作りや昼食代の負担も重なる時期です。市議会の反対討論において、私は次のようにその重要性と家計への影響を指摘しています。

「特に夏休みは働く保護者にとってもっとも児童クラブを必要とする時期です」

最も行政の支援を必要とする時期に直撃する大幅な負担増は、働く保護者にとって極めて深刻な課題となっています。

2. なぜ「段階的な値上げ」は見送られたのか? 行政と子育て世帯の攻防

市議会の委員会審議では、一急激な増額による家計へのショックを緩和するため、段階的な引き上げ案(例えば、8月利用料をいきなり10,000円にするのではなく、一度8,000円を経由して順次引き上げる等)についての質疑や提案が行われました。

しかし、市側は他市の事例も把握した上で、段階的な増額を採用しない判断を下しました。ここには、施設運営費の高騰に対して早期に安定した財源を確保したい行政側の構造的な論理と事務コスト削減の狙いがあります。

しかし、物価高騰の影響を受けているのは行政組織だけではありません。子育て家庭もまた、食費や光熱費をはじめとする生活コストの急激な上昇というダブルパンチに直面しています。

特に、普段は集落の助け合いや親族の協力でしのぎつつ、夏休みや7月・8月のスポットのみ利用する家庭にとっては、改定率2倍を超える急増は死活問題です。行政が早期の財源確保を一括増額によって解決しようとした対応に対し、「家計の実情に寄り添い、段階的引き上げなどもう一段の配慮が必要だったのではないか」という批判や議論が深まっています。

3. 「所得に応じた料金設定」は未検討?「子そだて一番」の理念と残された課題

現在も丹波篠山市では、生活保護世帯、児童扶養手当受給世帯、多子世帯等に対する一定の利用料減免・軽減措置は設けられています。しかし、中間所得層も含めた世帯所得に細かく連動する段階的な料金設定について、市は「今のところ検討に至っていない」と答弁しました。

この答弁に対し、市議会の総務文教常任委員会では、本議案を賛成多数で可決(承認)しつつも、市側の姿勢に対して釘を刺す形で次のような付帯的な申出(申し添え)を行いました。

  • 委員会の申し添え: 「今後所得に応じた軽減措置等の研究を継続していただきたい」

つまり、議案自体は通しつつも、現在の画一的な値上げ方では配慮が不十分であり、所得に応じた柔軟な負担のあり方を模索し続けるよう市に強く求めたのです。

丹波篠山市は「子育て一番条例」を掲げ、子育て支援をまちづくりの中心に据えてきた経緯があります。私は反対討論の中で、この理念と負担のバランスについて次のように述べています。

「私は子育て一番とは全てを無料にすることだとは考えていません。必要な負担をお願することもあると思います。しかし、子育て世帯に新たな負担を求めるのであれば、その負担によって必要な児童クラブの利用を諦める家庭を生まない仕組み、そして待機児童の解消を含め必要とする全ての子どもが安心して利用できる体制について同時に考えるべきであると考えます」

「子育て一番」というスローガンを形骸化させないためには、単なる負担増にとどまらず、経済的理由で利用を諦める家庭を出さないセーフティネットと待機児童解消に向けた受け入れ体制の強化を一体で進めることが欠かせません。

4. 持続可能な施設運営 vs 誰もが通える社会インフラ 両立への模索

放課後児童クラブは、単に一時的に子どもを預かる場所ではありません。子どもたちにとっては「放課後の生活の場」であり、保護者にとっては「安心して働き続けるための重要な社会基盤(インフラ)」です。

今回の丹波篠山市の改定劇は、全国の自治体が直面している「2つの正義(対立軸)」を鮮明に浮き彫りにしています。

  • 【運営の持続性】事業の質の確保と財政の安定
    • 支援員等の処遇改善や、安定した事業運営に必要な財源を確保する。
    • 物価・エネルギー価格高騰に伴う施設管理費の増加に対応し、安全な保育環境を維持する。
  • 【利用の権利】社会インフラとしてのアクセシビリティ保障
    • 物価高に苦しむ子育て世帯の負担増を最小限に抑え、誰もが利用できる料金に抑える。
    • 負担増による利用控え・利用諦めを防ぎ、待機児童を解消して必要な全児童を受け入れる。

施設運営を高品質で維持することと、支援を必要とするすべての家庭が排除されずに利用し続けられること。この二つの正義をいかにブレンドし、納得感のある制度設計をつくれるかが、今後の自治体経営の鍵を握っています。

結論・まとめ(結び)

丹波篠山市の放課後児童クラブ利用料改定(議案第74号)は、17年ぶりの据え置き終了とともに、特に夏休み期間や長期休業中の利用料が大幅に引き上げられる転換点となりました。

実際に改定が施行される予定の令和9年(2027年)4月1日に向け、今後は以下のポイントが注視されることになります。

  • 総務文教常任委員会の申し添えを受けた「所得に応じた軽減措置」の研究・導入の進展
  • 負担増に伴う利用諦めや潜在的な待機児童を出さないための支援体制整備
  • 現場の支援員の処遇改善と、放課後児童クラブの質の向上

公共サービスの質を保つための受益者負担の適正化と、子育て世帯の暮らしを守る社会インフラの維持。これは丹波篠山市だけの問題ではなく、私たちが暮らすあらゆる地域で現在進行形で起きているテーマです。

みなさんがお住まいの自治体では、放課後児童クラブや保育サービス、公共料金の負担についてどのような議論が行われているかご存知でしょうか?

市報や議会中継、自治体のウェブサイトを一度覗いてみてください。「街の持続可能性」と「子育て世帯の安心」をどう両立させるべきか、ぜひ身近な政策として自分のこととして考えてみましょう。

「追記」賛成多数でこの条例は可決してしまいましたが、

    終了後、唯一所得に応じた軽減措置

    これは4月に向けて必ず実施するとお約束してくれました。

【教育・地域の常識を覆す】「教えない」「未経験」「共通化」

「自己有用感」が子どもと地域を変える

——先進地域に学ぶ4つの逆転の発想

兵庫県南あわじ市であった「人権同和研究会」にて

1. 導入:私たちが信じ込んできた「正しさ」への問いかけ

「不登校の子どもは一日も早く学校へ戻さなければならない」 「阪神・淡路大震災を知らない世代の教員には、当時の命の重みを語り継ぐことは難しい」 「教育の質を高めるには、指導力ある教員の熱意と個人のスキルに頼るしかない」

教育や地域支援の現場において、私たちはこうした考えを疑いようのない「正しさ」として信じ込んできたのではないでしょうか。しかし、こうした思い込みに基づいた介入や指導が、かえって子どもたちの心を閉ざさせ、支援者や教員を孤立と疲弊に追い込んでいるケースは少なくありません。

今、兵庫県内の先進的な地域現場では、こうした従来の常識を鮮やかに覆す「逆転の発想」によって、驚くべき成果が上がっています。

大人の意図を排して「変えようとしない」居場所づくり、未経験の教員が地域の痕跡から命を語り継ぐ防災教育、個人の熱意に依存しない教育カリキュラムの共通化、そして学習の前にまず役割を与える関わり方——。

本記事では、洲本市、芦屋市、南あわじ市で行われている洗練された実践から、現場のリアルな知見と「直感に反する本質」を紐解いていきます。

2. Point 1:変えようとしない姿勢が生む「安心感」——仕掛けず、待ち、寄り添う居場所づくり

兵庫県洲本市の中心市街地、商店街の一角に立つ築100年超の古民家。畳と縁側があり、子どもたちが「ただいま」と自然に帰ってこられる“おばあちゃんの家”のような空間、それが洲本こども第三の居場所「みらいへ」です。洲本市内における早期欠席児童数が100人を超える中、学校復帰のみをゴールにするのではなく、地域の中に「安心してつながり続けられる拠点」をつくる挑戦が続いています。

ここで実践されているのは、従来の支援観を覆す「関わりの作法」です。

「大人が教室に戻そうとする意図を子どもは敏感に察する。変えようとせず横に座る姿勢が安心を生む。」

不登校の理由は無気力、不安、家庭環境、発達特性など様々で、子ども自身も言語化できないことが少なくありません。大人側が「指導しよう」「変化させよう」と意図を持って介入しようとすると、子どもはその警戒心から支援を拒絶してしまいます。「みらいへ」では、正面に向かい合って指導するのではなく、同じ空間で「横に座る」距離感を徹底。何かを無理に聞き出したり教えようとしたりせず、ただそこに寄り添い、子どもが自ら心を開くのを待つのです。

さらにユニークなのは、ボランティアやスタッフの関わり方です。高校生やスタッフの幼い子どもが同席する空間で、大人たちは「特別な支援者・被支援者」という境界線をあえて引きません。「ボランティアをして」と求めるのではなく、「ここで一緒に暮らして」と伝え、自然な生活共同体を築いているのです。

指導者と支援対象という一方的な構図を解体し、ありのままの存在が肯定される空間をつくること。この揺るぎない安心感の土台があって初めて、当初は笑顔のなかった子どもが表情を取り戻し、やがて「将来はみらいへで働きたい」「高校へ進みたい」と自らの意思で未来の夢を語り始めるのです。

3. Point 2:「未経験だから語れない」を覆す——震災30年目からの命の継承

阪神・淡路大震災から30年以上が経過した芦屋市立浜風小学校では、教職員も子どもも震災を直接経験していない「未経験世代」が大半を占めるようになっています。「体験していない自分が震災や命の重みを教えられるのだろうか」という教員側の強い不安は、多くの教育現場が直面する大きな壁です。

しかし、同校はこの壁を「資料の発掘と協働研究」という組織的なプロセスによって克服しました。

教員たちは校内に眠る過去の日誌や記録を掘り起こし、体育館に残る約30センチの傾斜や、沈下した校舎を下から掘って持ち上げた「ジャッキアップの痕跡」を写真やiPadを用いて検証。自分たちが日々過ごす学校空間そのものが「震災遺構」である事実を再発見したのです。

さらに、震災当時2年生で亡くなった王子更紗(おうじ さらさ)さんが残した文房具「お道具箱」や、藤子・F・不二雄氏から当時の児童へ送られた「ドラえもんからの手紙」といった日常に根ざした教材を活用しました。「ドラえもんからの手紙」は、震災直後に「のび太くんは水くみをしているのかな」と案じた子どもたちが送った手紙に対し、22世紀の科学者や技術者が力を合わせて地震を恐れなくする未来像を描き、支え合いの希望を提示した返信です。

遠い過去の惨事としてではなく、「かつてこの学校に通っていた友達のストーリー」として受け止めることで、子どもたちの学びは単なる「怖かった」という感想を超え、自分事としての共感へと変わっていきました。研修の中で送られた次の言葉が、教員たちの意識改革を決定づけました。

「語られたことを聞いて感じて、次の世代へ継ぐことは必ずできる」

被害の悲惨さや恐怖だけを強調する防災教育は、時に子どもを萎縮させます。校内の痕跡や生きた資料から受け取り、聞いて感じたことを次へ渡す——このアプローチによって、震災未経験の教員たちが「自分たちも防災学習の担い手になれる」と自信を持ち、子どもたちの中に未来志向で「命を守り、支え合う」力を育むことに成功しています。

4. Point 3:「共通化」は画一化ではない——個人依存を脱却する組織的仕組み化

南あわじ市では、道徳教育の教科化・強化に伴い、部落差別をはじめとする人権固有の課題が希薄化・埋没する構造的リスクに対応するため、小1から中3までの9年間を見通した人権教育の制度設計を行いました。中学校では「中1: 私とあなたの人権」「中2: 人権史・部落差別」「中3: 結婚差別」と発達段階に応じた系統的な深化を図っています。

一般的に「カリキュラムの共通化」と聞くと、教員の個性を奪う「画一化」や「詰め込み」と誤解されがちです。しかし、南あわじ市が目指したのはその真逆でした。

「共通化は画一化ではない。社会モデルの視点を共有しつつ、個人依存を避けた継続可能な仕組みをつくる。」

特定の「スーパーティーチャー」が持つ個人の熱意やスキルに依存する教育は、その教員が異動すれば途絶えてしまいます。南あわじ市では、教育委員会・校長会・南あわじ市人権教育協議会(南人協)が役割を分担し、準備段階から現場に伴走する手厚い支援体制を構築しました。

共通化された指導計画と教材をベースに、指導案に対する丁寧な赤字添削や市全体での授業研究公開サイクルを回すことで、経験の浅い若手教員も「何を深く考えさせるべきか」という視点が明確になり、安心して授業に向き合えるようになります。結果として「ただ授業をこなす」状態から「子どもと本気で向き合う」姿勢への意識変容が起きました。

さらに、実践記録や指導案をポータルサイトでデジタルアーカイブ化し、3年ごとにテーマを見直すPDCAサイクルを循環させることで、個人の才能に頼らない「組織的かつ持続可能な人権教育」を実現しているのです。

5. Point 4:学習の前に「役職」と「自己有用感」を育てる

洲本市「みらいへ」の取り組みには、学力保障や学習支援の面でも逆転の発想が見られます。不登校や学習の遅れがある子どもに対し、一律の詰め込みや無理な勉強の強制は行いません。その代わりに導入されているのが、子どもの状態に合わせて自分の意思で選択できる「5つの学習コース」です。

  • ゆっくりコース: 指定時間座って過ごす(読書・着席)
  • コツコツコース: 宿題・課題を終えて自由へ
  • のびのびコース: 50種メニューから選択する自学ノート
  • ぐんぐんコース: 高学年向け目標達成(月1項目習得)
  • 博士ちゃんコース: 特定の卓越した関心を探求

どのコースを選んでも、基本となるのは「10分×学年」の時間、同じ空間で座って過ごすことです。好きな関心を深める「博士ちゃんコース」から、ただ座って読書をする「ゆっくりコース」まで、本人のペースが徹底的に尊重されます。

そして、この学習プログラム以上に重要なのが、学習の前段階として「役割(役職)」を与え、「自己有用感」を育てるプロセスです。

「みらいへ」の夕食時、重い料理の運搬は難しくても、「コップ5杯に同じ量のお茶を注ぐ」という作業なら担える子どもがいます。その子は「僕はお茶係」と自信に満ちた表情で役割を果たします。

学習を無理強いする前に、まず小さな役割を果たして周囲から「ありがとう」と感謝される体験を積ませること。この「自分は誰かの役に立っている」という誇り(自己有用感)こそが心に安心の土台をつくり、結果として自発的に机に向かう意欲や、学校へ向かうエネルギーを根底から引き出すメカニズムになっているのです。

6. 結び:未来へ目を向ける問いかけと要約

本記事で取り上げた先進的な実践には、これからの社会的イノベーションを読み解くための共通する本質が含まれています。

  • 変えようとしない支援: 大人の指導意図を捨て、横に座る姿勢が安心の土台をつくる(洲本市「みらいへ」)
  • 当事者性を超えた継承: 校内の痕跡や身近な教材化を通じ、未経験者でも「聞いて感じて継ぐ」未来志向の学びが生まれる(芦屋市浜風小)
  • 仕組みによる持続可能性: 共通化は画一化ではなく、組織的伴走によって個人依存を脱却する基盤となる(南あわじ市)
  • 自己有用感からの自律: 学習の前に「小さな役割」と感謝の体験を渡すことが、自律的な意欲を引き出す(洲本市「みらいへ」)

学校教育や福祉の現場に限らず、企業における人財育成や組織づくり、地域社会の人間関係においても、私たちはつい「相手を正しく導こう」「指導して変えよう」とする大人の都合や焦りを押し付けてしまいがちです。

しかし、本当に人が育ち、自立し、次世代へ未来をつないでいくために必要なのは、相手のありのままを承認する「安心できる土台」と、特定個人の熱意に頼らない「持続可能な仕組み」を整えることではないでしょうか。

私たちが「良かれと思って」行っている指導や支援、あるいは日常のコミュニケーションは、知らず知らずのうちに相手の安心を奪い、選択肢を狭めてはいないでしょうか?

相手を変えようとする手を一度緩め、信頼して任せる土台をつくること——その小さな逆転の発想こそが、子どもたち、そして私たちの地域の未来を大きくひらく鍵となるはずです。

長月会議の一般質問

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「窓口の案内」を止める?15年の歩みで見えた、孤独を救う「つなぐ」技術

1. 導入:市役所の窓口で「突き放された」と感じる理由

「その件は福祉課の担当ですので、あちらの窓口でご相談ください」

困りごとを抱えてようやく市役所を訪れたとき、このように言われた経験はないでしょうか。職員は決して冷たく対応したわけではなく、むしろ正確に担当部署を「案内」しています。しかし、不安でいっぱいの相談者にとって、それは「ここでは話を聞いてもらえない」という拒絶、つまり「突き放された」感覚として記憶に残ることがあります。

丹波篠山市議会では、ある切実な光景が紹介されました。赤ちゃんを抱き、泣き声に焦りながら必死に申請書を書こうとした母親。しかし、忙しそうな職員の誰からも声をかけられず、彼女はついに書くのを諦めて帰ってしまいました。また、別の保護者は、5歳の子と赤ちゃんを連れて2号館を訪れましたが、エレベーターの場所がわからず、自力で階段を登らざるを得ない絶望感を味わったといいます。

行政側が「適切に案内した」と考える一方で、市民は「受け止めてもらえなかった」と感じる。この決定的なすれ違いをどう解消すべきか。単なる「案内(アナウンス)」を超え、相手の不安に寄り添い、確実な支援へと手渡す「接続(コネクト)」への転換。丹波篠山市の議論から、より優しい行政のあり方を探ります。

2. 自殺予防の最前線は「水道課」や「税務課」にある

自殺予防と聞くと、精神保健や福祉の専門部署が担うものと思われがちです。しかし、丹波篠山市のデータは意外な事実を物語っています。過去10年間の自殺死亡者の77.5%が男性であり、働き盛りの40代(23.8%)が最多。原因は健康問題(42.6%)だけでなく、経済・生活問題(17.8%)や家庭問題(14.9%)と多岐にわたります。

特筆すべきは、「亡くなられた方の80%には同居人がいた」という事実です。家族がいてもSOSを出せない、あるいは家族が気づけないほど追い詰められているとき、外部との唯一の接点になり得るのが、実は「水道課」や「税務課」といった非福祉部門の窓口なのです。

例えば、水道料金の分割納付に訪れた市民が、ふと小さいため息をつく。そこで事務的な手続きに終始するのではなく、「お支払いが難しいですか?」「最近お仕事や体調、疲れてませんか?」と一言添えられるかどうか。その一言が、一人の人生の、最後にして唯一の防波堤になるかもしれないのです。

3. 15年かけて「啓発」から「文化」へ昇華させた「TALKの法則」

丹波篠山市では平成23年から、自殺予防の思いを込めた「TALK(トーク)」ポロシャツを制作し、15年にわたり啓発を続けてきました。TALKとは、悩んでいる人に気づき、支えるための具体的な行動指針です。

  • T(Tell):伝える 「心配している」というメッセージを相手に伝える。
  • A(Ask):尋ねる 「死にたいほどつらいのか」と率直に尋ねる。
  • L(Listen):聞く 相手の気持ちを否定せず、じっくりと聴く。
  • K(Keep Safe):安全確保 一人にせず、適切な支援へと確実につなぐ。

しかし、長年の取り組みも、意識し続けなければ風化します。議会では、市役所内を歩いた議員から「ポロシャツの着用率が1/3程度に留まっている」という厳しい指摘もなされました。15年の歩みを一部の部署の「啓発」で終わらせず、全庁的な「文化」へと定着させるべきだという議論です。

「大切なのな、その胸に書かれたトークの意味を……市役所全体で共有することです」

この理念を「行動」へと移し、仕組み化すること。それこそが、案内する市役所から「気づいて、聞いて、つなぐ」市役所へと進化する鍵となります。

4. 不登校の「状態0(ゼロ)」:お腹が痛いという小さなSOSを拾う

「気づいて、つなぐ」姿勢は、教育の現場でも求められています。本格的な不登校に至る前には、必ず「状態0(ゼロ)」と呼ばれる予兆があります。 「朝になるとお腹が痛いと訴える」「週に1〜2日休むようになる」といった、家庭の中だけで発せられる小さなサインです。

多くの保護者は「この程度のことで相談していいのか」と一人で抱え込みますが、この初期段階こそが重要です。行政には、待つ(プル型)のではなく、届ける(プッシュ型)の支援が求められます。

例えば、姫路市では保護者のリアルな不安を肯定するリーフレットを作成し、尼崎市では「1日目の登校しぶりから相談してほしい」と発信しています。さらに北海道旭川市では、こうした相談情報をまとめたリーフレットを、全小中学校の保護者や児童生徒へ事前に配布しています。行政側から「味方であること」を可視化して届ける。そのプッシュ型の優しさが、親子の孤独を防ぐのです。

5. 「サポートファイル」は障害児のためだけのものではない

子どもに関わる情報を、教育・福祉・保健の間で共有する「サポートファイル」。このツールの運用を巡り、議会では熱い議論が交わされました。

当初、教育委員会側は「主に発達障害等のためのもの」という認識を示していました。しかし、議員側は「こども家庭庁の指針では、不登校傾向やヤングケアラーも対象である」と指摘し、その定義のアップデートを迫りました。行政の古い認識を正し、個別配慮が必要な全ての家庭を支える「共通のセーフティネット」として再定義したのです。

サポートファイルの活用をルール化することは、二つの意味を持ちます。 一つは、窓口が変わるたびに一から説明を強いられる「二重の精神的疲労」から保護者を解放すること。もう一つは、担任の先生が一人で問題を抱え込まず、福祉や保健と役割を分担することです。支援する側のウェルビーイングを守ることが、結果として質の高い支援へと繋がります。

6. 結論:誰もが「誰かのゲートキーパー」になれる街へ

市役所の窓口であれ、地域であれ、求められているのは「専門家による特別な処置」だけではありません。

大切なのは、「気づいて、聞いて、つなぐ」という、シンプルで温かい行動の積み重ねです。単に「案内」して終わりにするのではなく、相手の不安に寄り添い、適切な支援に手が届くまで伴走する。その少しの手間と優しさが、一人の人生、一つの家庭を救うことにつながります。

「気づいて、聞いて、つなぐ」というTALKの精神は、公務員だけでなく、私たち一人ひとりの中にも宿っています。

もし、あなたの隣にいる人が、小さなため息をついていたら。 あなたなら、どんな一言をかけますか?

「スポーツの力で、挑む姿を美しく」

この度、一般社団法人SSKT所属の小林選手(19)が、青森県で開催される「全国障害者スポーツ大会」へ兵庫県代表として2度目の選出を果たしました。

また、私・桐村裕一も兵庫県より役員としての帯同を任され、共に決戦の地へ向かいます。

本大会は、オリンピックに対するパラリンピックと同様、国内の障がい者スポーツにおける最高峰の総合競技大会です。

開会式と閉会式には皇族方やスポーツ庁長官をはじめとするご臨席を賜り、その模様はNHKでも全国生中継されるほか、多くのメディアで大きく取り上げられるなど、極めて高い格式と華やかさを誇ります。

当初より「社会参加の促進」という温かい理念を持つ大会であるため、一生に一度しか出場権を得られない地域もある中、小林君は県大会で圧巻の成績を収め、実力で二度目の兵庫県代表の座を勝ち取りました。

テレビの画面越しにも伝わる高貴な気品と熱気。そんな最高峰のステージでアスリートとして輝く小林君の挑戦。

出場選手の中には、未来のパラリンピアンとして世界を見据えるトップアスリートも数多く集います。

気品ある雰囲気の中、熱き情熱が交錯するこの特別な舞台で、前回の悔しさを糧に「雪辱を果たしたい」と強い想いを胸に抱く小林選手。

日本中が注目する気品ある雰囲気の中、兵庫県代表小林選手が存分に力を発揮できるよう、兵庫県代表の役員として全力で伴走してまいります。

議会はもっと「クリエイティブ」になれる。

滋賀県甲賀市と愛知県岩倉市に見る、住民を本気にする5つの仕掛け

「政治は自分たちの生活とは遠いもの」「議会が何をしているのかさっぱりわからない」。

そんな風に感じたことはありませんか? 多くの人にとって、市役所の議場は「近くて遠い場所」かもしれません。

しかし今、その距離を劇的に縮めようとする、クリエイティブな挑戦を始めている自治体があります。

2026年7月、兵庫県丹波篠山市議会の広報広聴常任委員会が視察に訪れた、滋賀県甲賀市と愛知県岩倉市の取り組みです。

人口約4万7,900人のコンパクトな愛知県岩倉市と、480平方キロメートルを超える広大な面積を持つ滋賀県甲賀市。規模も環境も異なる両市に共通していたのは、住民が来るのを待つのではなく、議会が自ら住民に「会いに行く」という能動的な姿勢でした。

私たちの議会に対する先入観をアップデートする、5つの驚きの仕掛けをご紹介します。

くじ引きで選ばれる「議会サポーター」という特別感(岩倉市)

愛知県岩倉市議会が平成30年から導入している「議会サポーター制度」は、無関心層を動かすための緻密な戦略に満ちています。特筆すべきは、その選定方法。自ら応募する「公募」ではなく、住民基本台帳から「無作為抽出」、つまり「くじ引き」で選ばれた市民に案内を送るスタイルです。

  • 「招待」が生む当事者意識:18歳から85歳までの市民の中から、人口比に基づいた5つの区分で500名を抽出。あえて若年層(10代〜30代)の抽出数を増やすことで、政治の高齢化に抗っています。
  • 3,000円のQUOカードという「誠実さ」:ボランティア任せにせず、謝礼を用意することで、活動への責任感と参加へのハードル低下を両立させています。
  • 「サポーター」という名称の魔法:単なる「監視役(モニター)」ではなく、共に歩み、議会を応援する存在であってほしいという願いが込められています。

「市議会を支援・応援してほしいという観点から『サポーター』という名称が採用された」

自分から手を挙げるのはハードルが高くても、「500人の中に選ばれました」と議会から直接メッセージが届けば、「一度行ってみようか」という「特別感」が生まれます。これが、これまで議会に縁のなかった層を呼び込む鍵となっています。

ショッピングモールで「3分間」の民意抽出(甲賀市)

滋賀県甲賀市議会が実践したのは、究極のアウトリーチ(出向き)型調査です。彼らが向かったのは議場ではなく、若者や現役世代が集まる大型商業施設「アヤハプラザ」でした。

そこでは、お堅いヒアリングではなく「3分アンケート」を実施。わずか1.5時間で125名もの市民から意見を集めることに成功しました。「議会が市民を待つ」という従来の姿勢を捨て、議員自らがエスカレーター横や広場に立つことで、普段は声が届かない世代の「生の声」に触れたのです。

ここで集まった「夜間小児科の充実」や「公共交通の改善」といった切実な意見は、単なるメモで終わりません。実際に常任委員会の調査や一般質問の根拠として活用され、政策へとつながる好循環を生み出しています。

中学生でも読みたくなる「推せる」議会だより(甲賀市)

「議会だより」といえば、難しい用語と議員の顔写真が並ぶだけのもの……というイメージを、甲賀市は鮮やかに塗り替えました。驚くべきは、企画から業者との調整まで、すべて議員自身が「手作り」している点です。

  • デザインの「鉄則」を徹底:中学生や小学生でも読みやすいよう、「写真は傾けない」「文字を詰め込みすぎない」といった独自のルールを運用しています。
  • 表紙は市民との共作:表紙写真を一般公募し、市民参加の入り口を作っています。
  • 人間味あふれるプロフィール:議員紹介ページでは、**「好きな歌」**を掲載するなど、自由な形式で個性を表現。

「情報を正確に載せる」だけの広報から、「まずは手に取ってもらう」ための広報へ。議員を「遠い政治家」ではなく「一人の人間」として見せる工夫が、情報の到達率を劇的に高めています。

「教室に議員がいる」主権者教育のリアリティ(岩倉市)

岩倉市議会議長が推進する小中学校での「主権者教育」は、単なる講義ではありません。議員が各クラスのディスカッションの中に一人の参加者として混ざり、生徒たちのリアルな意見に耳を傾けるスタイルです。

この活動の最大の価値は、子供たちに「自分の声が大人(社会)を動かした」という成功体験を与えることにあります。

  • 政治的無関心の防止:中学生の意見がきっかけで、実際に議員が一般質問を行った事例もあります。「言っても無駄」という諦めを、「言えば変わる」という実感に変える、極めて実戦的な教育です。
  • 「大人の本気」を見せる:議員が教室に足を運ぶこと自体が、子供たちにとっての「民主主義のリアリティ」となっています。

帽子、乳幼児、タブレット——「傍聴の壁」を壊すアップデート

両市は、議会の「当たり前」を市民目線で破壊し、傍聴のハードルを下げる試みを続けています。

  • 「立ち寄りやすさ」の追求(岩倉市):受付での記名を不要にし、本会議中の写真・動画撮影も許可。これにより、通りすがりの市民がふらっと覗き込める心理的余裕を生んでいます。
  • 対立から「対話」へ:サポーターの提案を受け、岩倉市では「職員が座って答弁する形式」を採用。威圧感を排除し、建設的な議論を行う場への転換を図っています。
  • 時代に合わせた規則見直し(甲賀市):「帽子を脱ぐ」といった時代に合わない規則や、乳幼児連れの傍聴制限を撤廃するための議論が始まっています。
  • デジタル化の落とし穴への気づき:議会のタブレット導入により、傍聴席から「何が審議されているか文字が見えない」という新たな課題(デジタル化による阻害)にも着目し、改善を模索しています。

あなたの街の議会に、何を求めますか?

今回紹介した取り組みは、決して「完成された成功物語」ではありません。実際には、両市とも「アンケート回収数の減少」や「SNSの活用不足」といった現在進行形の悩みや失敗を抱えながら、泥臭く試行錯誤を続けています。

しかし、その「変化しようとする意志」こそが、議会をクリエイティブにし、住民を本気にさせるのではないでしょうか。

もし、あなたのもとに「議会サポーター」の招待状が届いたら。あるいは、ショッピングモールでアンケート板を持った議員に出会ったら。

「もしあなたが議会サポーターに選ばれたら、最初にどんな声を届けたいですか?」

議会を変えるのは、特別な誰かではなく、あなたの一言から始まる「自分たちの物語」なのかもしれません。