10月20日・21日は東京へ
1. 報告書の概要と目的
本報告書は、2026年10月に実施されたこども政策および社会福祉分野に関する現地視察、専門講義、ならびに自治体関係者・厚生労働省・こども家庭庁担当者とのインタビューおよびパネルディスカッションの成果を、構造的かつ政策論理的に統合した公式視察報告書である。
近年のこども政策・社会福祉分野においては、令和5(2023)年4月の「こども家庭庁」創設を皮切りに、こども基本法の施行や「こども大綱」「子ども未来戦略」の閣議決定など、省庁の縦割りを打破する抜本的な制度改革が進められてきた。さらに、令和8(2026)年8月には改正「医療的ケア児等支援法」(以下「医療的ケア者支援法」と表記)が成立し、支援対象の18歳以降への拡大や地域支援体制の強化に向けた新たな法的枠組みが整備された。
このような急速な法制度・施策展開の渦中において、制度の理念と現場の実務・財政構造との間に生じる構造的乖離を検証し、持続可能な地域社会の構築に向けた実践的示唆を得ることが本報告書の目的である。
本報告書は、視察成果を以下の5つのコアテーマに再構造化して展開する。
- 少子化対策と子どもまんなか政策の全体像:こども家庭庁の基本ミッション、少子化の過酷な現状データ、少子化対策と子ども・子育て支援の「両輪」推進構造の整理。
- 地方の人口減少対応とスマートシュリンク:若年層の地方流出要因の解明、従来の人口規模維持から若者の「自分なりの納得感」に寄り添うライフデザイン支援への転換。
- 医療的ケア者支援と18歳の壁の打破:プログラム法としての改正医療的ケア者支援法の構造、特別支援学校卒業後の「18歳の壁」の実態、および地方自治体における一般財源投入(単独事業)の行政的判断。
- 重層的支援体制とコミュニティの居場所づくり:社会的孤立・ワンオペ育児を防ぐ包括的支援、ピアサポートの重要性、ACEs(逆境体験)とPCEs(肯定的な体験)を同一事業内で重層的に達成する「乳幼児ふれあい体験」および対話型プラットフォームの実践。
- 認可保育園と児童発達支援のインクルーシブ併設運営:未就園児や障害児を包摂する「子ども誰でも通園制度」の展開、多職種連携と専門人材確保の課題、および「こども政策DX」を活用した持続可能な現場運営。
2. テーマ1:少子化対策と子どもまんなか政策の全体像
2.1 目的・背景
こども家庭庁は、令和5(2023)年4月に設置された。「子どもまんなか社会」の実現をスローガンに掲げ、「子どもの視点に立つこと」「常に子どもの最善の利益を第一に考えること」「全ての子どもの幸福を追求すること」を基本ミッションとしている。その役割は、省庁の縦割り打破、制度の隙間事案への対応、保健福祉分野を中心とする事業の実施を軸に、政府全体の子ども政策の「司令塔」機能を担うことにある(内部部局約420名、施設等機関約80名、計約500名体制:1官房2局体制)。
わが国の少子化と人口減少の現状は極めて深刻な水準にある。
- 年間出生数:昨年度は約67万人となり、第2次ベビーブーム期のピーク(毎年約200万人)の3分の1以下に減少している。
- 合計特殊出生率:過去最低の「1.14」を記録。
- 50歳未婚割合:男性28%、女性17%に達し、1980年代と比較して大幅に上昇している。
- 将来推計人口:現在の減退傾向が継続した場合、2070年には総人口が約8,700万人まで減少すると推計されている。
少子化の要因分析においては、女性人口の減少(人口要因)、非婚化の進行、夫婦の出生率低下という「三重苦」が指摘されている。これに対し、こども家庭庁では、個人の結婚・出産・子育ての希望を叶える「少子化対策」と、いじめ・不登校・虐待防止など現に生きる子どもの健全育成を図る「子ども・子育て政策」を「両輪」として推進している。子どもの頃に虐待等の逆境体験(ACEs)をした場合、適切な支援や周りのケアがなければ、大人になった際に「自らの子どもに同じ体験をさせてしまうのではないか」と躊躇し、少子化に直結する。周囲の大人が包括的に支援し自己肯定感を高めることが、結果として将来の出生意欲へと繋がる相互関連性が存在する。
2.2 主要施策・法制度のポイント
子ども政策の法体系は、根幹となる「子ども基本法」のもと、今後5年程度の方針を定める「こども大綱」(令和5年12月閣議決定)、および毎年約400の具体的施策を各省庁横断で落とし込む「こどもまんなか実行計画2026」(令和6年6月策定)によって体系化されている。
少子化トレンドの反転に向けた「子ども未来戦略」(令和5年12月決定)では、3.6兆円規模の「加速化プラン」が掲げられており、主要施策の要点は以下の通りである。
子ども未来戦略「加速化プラン」の主要施策一覧
| 施策項目 | 概要・具体的内容 |
| 児童手当の拡充 | 所得制限撤廃、対象年齢延長(高校生年代まで)に加え、第3子以降の支給額を月3万円(満18歳到達後の最初の3月31日までの期間で総額最大400万円分)へ拡充。 |
| 妊娠・出産期の支援強化 | 妊娠初期段階からの5万円給付と一律の伴走型相談支援(妊産婦の孤立・産後鬱防止)。 |
| 出産費用負担の軽減 | 出産育児一時金を50万円へ引き上げ。令和8年度以降は全額保険適用化を推進。 |
| 高等教育の負担軽減 | 多子世帯を対象とした大学等授業料等の無償化制度を実施。 |
| 子ども誰でも通園制度 | 親の就労有無にかかわらず利用可能な未就園児通園制度(令和6年4月試行的実施、令和8年度本格実施)。 |
また、福祉政策を行政の公費投入のみに留めず、産業界と連携する「子どもとともに成長する企業構想」が推進されている。これは、子育てしやすい職場環境整備や地域貢献を行う企業において、従業員のエンゲージメント向上や採用力の強化(企業価値向上)と、子ども・子育て環境の改善(社会的価値創出)の好循環を生む取り組みである。中小企業への実装支援のため、地域金融機関(地銀等)と連携した低利融資、ガイドライン策定、優良企業の認証制度やアワード授与といった環境整備が進められている。
2.3 現場の実践・課題
政策策定の基盤として実施された「若者10万人総合調査」(10代〜30代対象、史上最大規模)の速報値からは、現代の若者が抱えるリアルな生きづらさが浮き彫りとなった。
- 若者の直面する課題:今困っていることの第1位として「自分の容姿(容姿への不満・自信のなさ)」が挙がり、自己肯定感の低さが顕著である。さらに「一生結婚するつもりがない」と回答した層が3割を超え、自らの生活維持で精一杯な現状が示された。
- 精神的健康(ウェルビーイング)の低迷:ユニセフの「子どもの幸福度レポート」において、日本の「身体的健康」は上位にあるものの、「精神的健康」は37カ国中32位と極めて低い。15〜19歳の死因第1位が「自殺」であり(令和7年自殺者数538人)、いじめ重大事態(令和6年1,404件)や不登校の増加も深刻である。
行政現場には、虐待・いじめ・不登校などの「逆境体験(ACEs:Adverse Childhood Experiences)」を予防する施策と、自然体験や成功体験などの「肯定的な体験(PCEs:Positive Childhood Experiences)」を増やす施策を一体的・重層的に推進することが求められている。
2.4 地域・行政への示唆
- 当事者意見聴取の制度化・実効化:子ども基本法第10条およびこども大綱に基づき、政策決定プロセスにおいて「子ども・若者の当事者意見聴取」を必須化する。単なるアリバイ作りのヒアリングを排し、意見を確実に施策へ反映・還元するフィードバック構造を設計する必要がある。
- 客観的KPIの設定とPDCAサイクルの徹底:3.6兆円規模の予算効果を厳格に検証するため、事業ごとに客観的KPIを設定しPDCAサイクルを稼働させる。あわせて「子ども予算の全体見える化」を通じて、補助金・交付金の支出先や効果の透明性を高めることが行政に求められる。

3. テーマ2:地方の人口減少対応とスマートシュリンク
3.1 目的・背景
地方自治体における人口減少、特に若年層(とりわけ女性や理系人材)の流出背景には、地域特有の構造的課題が存在する。
- 公共交通の不便さ:車の運転を忌避・負担に感じる若者が増える中、地方の路線バス等の運行終了時刻が早い(例:終バスが21時で終了)など、夜間の移動手段の制限が都市部への流出要因となっている。
- 就労機会のミスマッチ:都市部の理系大学等を卒業しても、地元地域に高度な専門知識や技術を活用できる産業構造・受皿企業が存在しない。
従来の行政手法である「根拠のない目標人口の提示」や「昭和型の価値観(結婚・出産を当然の規範とする固定的な人生観)の押し付け」は若者の離反を招く。単なる人口規模の維持・拡大を目指すのではなく、多様化する若者の価値観に寄り添い、一人ひとりが将来像に明確なイメージを持てる「納得感のあるライフデザイン支援」への転換が必要不可欠である。
3.2 主要施策・法制度のポイント
国は「地域少子化対策重点推進交付金」を通じ、自治体が実施するライフデザイン支援事業を支援している。
- 施策枠組み:若年層を対象としたライフデザインセミナーの開催、乳幼児とのふれあい機会の創出、SNSやWEBを活用した情報発信の強化。
- 産学官連携の展開:地元の大学、自治体、企業が一体となり、大学の授業枠を活用した「ライフデザイン講義の必修化」や、地域企業の魅力を再発見させるカリキュラムの導入を推進。
3.3 現場の実践・課題
「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」や、副大臣を筆頭とする地方若者との意見交換(2〜3時間に及ぶ直接対話)により、以下の生の声が把握された。
- 若者の本音:「車を運転したくない」「夜間移動手段がない」「自らの両親に将来設計や結婚の相談をするのは恥ずかしい・抵抗がある」。また、結婚・出産は「人生の絶対的ゴール」ではなく、「自らの幸せを実現する手段の一つ」と捉えられている。
- 実践事例(大学での必修講義):ある地方の大学において、地域企業と連携した「ライフデザイン講義」を必修科目として導入した。講義を通じて地元企業の技術力や魅力、地域での多様な働き方を具体的に発見できたことで、当初「都心部へ転出・就職予定」であった学生が意識を変え、地元企業への就職決定・定着を果たした成功事例が報告されている。
3.4 地域・行政への示唆
- 行政アプローチの意識改革:「正解の押し付け」から「自分なりの納得感の重視」へ転換する。他者との比較や旧来の規範ではなく、近い世代の多様なロールモデルを提示し、若者が自身の将来の解像度を高められる伴走支援へと意識改革を図る。
- 地域産業構造の転換と教育連携:
- 若年層(特に理系人材や女性)のニーズや専門性に合致する、地域産業構造のデジタル化・高付加価値化の推進。
- 自治体・大学・地元産業界が一体となった「ライフデザイン教育プログラム」の全国展開とモデル化。

4. テーマ3:医療的ケア者支援と18歳の壁の打破
4.1 目的・背景
令和8(2026)年8月に改正された「医療的ケア児等支援法」(医療的ケア者支援法、令和9年4月本格施行)は、従来の18歳未満中心の支援体系から、成人期を含む「医療的ケア者」全体への包括的支援へと飛躍的な法改正を果たした(議員立法により成立)。
ここで政策上厳格に識別すべきは、本法が国・自治体・事業者の理念や基本指針を示す「プログラム法」であり、具体の福祉サービス給付決定や事業者基準・報酬額を直接規定する個別サービス法制(障害者総合支援法や児童福祉法)とは法体系上の性質が異なる点である。そのため、本法が改正されても現場の障害福祉サービス(生活介護等)の基本報酬が自動的に引き上げられるわけではなく、国制度の報酬改定の遅れと現場の運営赤字との間に構造的乖離が生じることとなる。
医療技術の進歩に伴い医療的ケア児の平均寿命が延伸した一方で、18歳以上の成人期における福祉サービス・医療提供体制は著しく不足している。特に、特別支援学校在校中は「学校+放課後等デイサービス」により朝9時から夕方18時頃まで預かり機能が確保されていたのに対し、卒業後に移行する「生活介護事業所」等では預かり時間が15時頃(実質6〜7時間)で終了してしまう。この時間差(いわゆる「18歳の壁」)により、保護者が送迎や介護のためにフルタイム就労を断念せざるを得ず、離職や家庭内孤立、親の高齢化に伴うレスパイト(一時休養)不足が深刻化していた。
4.2 主要施策・法制度のポイント
改正法は基本理念を大幅に拡充し、法律の対象を「児」から「者」(18歳以上の成人、ALS等の進行性難病患者を含む)へと拡大するとともに、「重症心身障害者」を明確に包含した。
改正医療的ケア児等支援法(医療的ケア者支援法)の主要ポイント一覧
| 区分・条文 | 主要改正・新設内容 |
| 対象の拡大(第2条) | 18歳以上の成人「医療的ケア者」、ALS等の進行性疾患患者、および「重症心身障害者」を支援対象として明確に定義。 |
| 基本理念の充実(第3条) | 家族の介護負担軽減、レスパイトの保障、当事者の自立および社会参加の推進を明記。 |
| 教育・医療環境(第9条等) | 喀痰吸引等を行う特定従事者(介護士等)や看護師の配置推進。高校・大学等における学習・受入機会の保障。 |
| 生涯学習(第10条の3) | 18歳以降の生活介護等においても継続的に学びやQOL向上を保障する生涯学習推進規定の新設。 |
| 切れ目ない医療(第10条の2) | 18歳を境とする小児科から成人科(呼吸器・循環器等)への移行(トランジション)における切れ目ない医療提供の義務化。 |
| 生活・住居・就労(第11条〜) | レスパイト・通所支援・送迎の充実、重度訪問介護の確保、親亡き後を見据えた「住居の確保(自立支援)」および「就労支援」の新設。 |
| ピアサポート(第12条の2) | 当事者および家族間の相互支援(ピアサポート)体制整備による孤独・孤立防止規定の新設。 |
| 支援センターの拡充 | 「医療的ケア児等支援センター」の設置主体を都道府県(47箇所設置済)から、指定都市・中核市・特別区へ拡大(令和9年4月本格施行)。 |
| 地域協議会の新設(第12条の3) | 行政・事業者・当事者家族・学識経験者等の多職種で地域課題を共有・抽出する「医療的ケア者協議会(地域協議会)」の任意設置規定を新設。 |
| 災害対策・人材確保(第20条) | 災害時の市町村連携による要支援者情報の提供、研修方法の見直しによる専門人材確保・質的向上。 |
なお、国制度の対応として、令和6年度障害福祉サービス報酬改定において「生活介護」の延長支援加算の評価強化が図られている。
4.3 現場の実践・課題
地方自治体の現場では、国の報酬体系のみでは事業所運営が成り立たない窮状が顕在化している。
- 小規模自治体における財政投入の実際:人口約3万8,000人規模の財政力が乏しい自治体(岡山県内の小規模市)において、18歳を迎えた重度医療的ケア児の受け入れ先となる生活介護事業所が採算性の問題から受け入れを難色を示した際、市が一般財源を投入して1日1万2,000円(年間数百万円規模)の「生活介護事業所支援補助金」を独自支給する行政的判断を行った。
- 過酷な送迎実態:人工呼吸器や喀痰吸引が必要な重度者の場合、ハイエース等の送迎車1台あたりの乗車人数は3〜4名が限界であり、ドライバーに加え看護師・介助員ら複数名の同乗が必須となる。国の送迎加算ではこの膨大な人件費を到底カバーできず、事業者および自治体の単独補助に過重な負担がかかっている。
- 医療移行(トランジション)の課題:18歳以降も成人科への受け入れが進まず、小児科に通い続けざるを得ないケースが多い。地域に専門の成人科(呼吸器内科等)が存在しない地方部では、小児科医の退職や閉院に伴い医療提供が途絶するリスクを抱えている。
4.4 地域・行政への示唆
- 医療的ケア者協議会(地域協議会)の積極設置:改正法に盛り込まれた地域協議会を活用し、行政、福祉事業者、医療機関、当事者家族が一体となった多職種連携プラットフォームを構築・運用する。
- 生涯学習・QOL向上における地域格差の是正:都市部(尼崎市等)では障害者センターに専用プールが整備され、指先しか動かない重度障がい児であっても専門職(PT等)の指導のもと水中で身体の軸を整え25mを8分かけて泳ぐといったQOL向上の機会が担保されている。一方、地方部(丹波篠山市等)では施設まで60km離れており、移動の負担から自宅のお風呂で代用せざるを得ないのが実態である。専門人材や設備の地域格差を埋めるため、広域行政による施設共同利用の推進や自治体単独補助の拡充、および国への基本報酬改定要請が不可欠である。
5. テーマ4:重層的支援体制とコミュニティの居場所づくり
5.1 目的・背景
家庭内での孤立、ワンオペ育児、障害児・医療的ケア者家族が直面する精神的疲弊や社会的孤独を防ぐためには、従来の分野別支援を超えた「重層的支援体制」とコミュニティの居場所づくりが不可欠である。
当事者同士の共感(ピアサポート)や地域社会とのゆるやかな繋がりは、ACEs(逆境体験)によるトラウマを緩和し、自己肯定感の向上や精神的ウェルビーイングの回復に決定的な役割を果たす。
5.2 主要施策・法制度のポイント
- 法制度上の位置づけ:子ども基本法、障害者福祉施策、および改正医療的ケア者支援法第12条の2において「ピアサポート」および「居場所づくり」の推進が明確に位置づけられた。
- 国の交付金・補助枠組み:地域少子化対策重点推進交付金や重層的支援体制整備事業を活用し、当事者が安心して滞在し対話できる多様な居場所(プラットフォーム)の確保を支援している。
5.3 現場の実践・課題
1. 「乳幼児ふれあい体験」事業における「一石三鳥」の効果と概念統合
中学生・高校生・大学生が乳幼児・保護者と直接触れ合う地域事業であり、以下の3つの効果(一石三鳥)を同時に達成している。
- 若者への効果(1石目):赤ちゃんに触れることで、将来親になるイメージやライフデザインの解像度を高める(PCEsの創出)。
- 保護者への効果(2石目):ワンオペ育児で社会的孤立に陥りがちな母親に対し、若い世代との対話を通じた気分転換と孤立防止の機会を提供する。
- 潜在的リスクの早期発見(3石目・ACEsとPCEsの統合):本事業は単なる肯定的な体験の提供にとどまらず、乳幼児を前にして怖がり逃げてしまった生徒に対する聞き取りを通じて、小学生時代の虐待被災体験(ACEs)を早期発見し、専門的相談支援へ繋げた具体的実践事例が存在する。まさにACEs予防とPCEs推進を同一事業内で重層的に達成した好例である。
2. 若者の行動不全(いわゆる「地蔵化」現象)に対する対話型プラットフォームの実践
現代の若者は、SNSでの炎上・デジタルタトゥーへの恐怖、過剰なコンプライアンス意識、失敗を恐れる正解志向(「失敗しない言葉や完璧なタイミングを追求する傾向」)、ならびに女性側の相反する要求(日常的な優しさ・気配りと重要な局面での伝統的決断力の両立要求)に囲まれ、プロポーズ等の重要局面で身動きが取れなくなる行動不全(いわゆる「地蔵化」現象)が生じている。これに対し、行政主導の形式的イベントではなく、学生自身が記事を執筆・発信するポータルサイト「ライフデザインユースラボ」を創設。「演出より対話、正解より納得」という価値観を共有し、当事者同士の率直な対話を通じて自己肯定感と行動力を高める居場所運営が行われている。
5.4 地域・行政への示唆
- 一石三鳥型施策の積極導入:単一目的の事業(子育て支援のみ、あるいは青少年教育のみ)を縦割りで実施するのではなく、多世代が交わることで複数の社会課題を同時に解決する「複合型コミュニティ事業」を計画・予算化する。
- 当事者主体・対話重視の居場所づくり:行政の押し付けを排し、ユースラボのように当事者自身が企画・発信に関与できる仕組みを取り入れ、若者や支援を要する世帯が安心感を得られる重層的な居場所を創出する。
6. テーマ5:認可保育園と児童発達支援のインクルーシブ併設運営
6.1 目的・背景
未就園児、発達上の支援が必要な子ども、医療的ケア児や障害児を、幼少期から分け隔てなく地域の保育環境の中で共に育む「インクルーシブ保育・発達支援」の重要性が高まっている。
親の就労状態にかかわらず柔軟に利用できる「子ども誰でも通園制度」(令和6年4月試行開始、令和8年度本格実施)の導入に伴い、認可保育園において多様なニーズを持つ子どもを包摂する体制整備が急務となっている。

6.2 主要施策・法制度のポイント
- 一体的・並行的運営の基準:認可保育所と児童発達支援事業所との併設・連携に関する国の制度基準を適用し、集団保育と専門的な発達支援を並行して提供する環境を整備する。
- 多職種配置と研修体系:保育士、看護師、理学療法士(PT)・作業療法士(OT)、児童発達支援管理責任者等の多職種配置を推進。専門人材の共通理解を促進するための研修体系や配置基準の特例措置を活用する。
6.3 現場の実践・課題
- 専門人材の確保難と経営の厳しさ:インクルーシブ保育には極めて高い専門性が求められるが、事業所経営の厳しさや待遇面の問題、ならびに人材の能力・スキルの格差(特定の看護師・介護士でなければ重度児に対応できない等)により、専門人材の確保が著しく困難となっている。配置基準の限界を超えた手厚い人員配置が必要とされ、現場の負担が限界に達している。
- こども政策DXの活用:人材不足を補い、現場の事務・観察負担を軽減するため、ICTツールやデータ共有システム等の「こども政策DX」を現場へ導入。業務効率化を図りつつ、多職種間での発達記録や専門知見の共有をスムーズにする実践が進められている。
6.4 地域・行政への示唆
- 併設・連携モデルへの自治体伴走支援:認可保育園が児童発達支援事業を併設・連携する際の行政的負担を軽減するため、自治体による公費上乗せ補助や設置認可の伴走型手続支援を実施する。
- 広域的な専門人材育成プログラムの構築:単一事業者のみで高度人材を育成・確保することは困難であるため、自治体や広域行政が主体となって「インクルーシブ保育・発達支援専門研修」を定期開催し、地域全体の保育・支援の質を底上げする。
7. 総括と今後の提言
7.1 5つのテーマを貫く共通キーワード
本視察を通じて明らかになった5つのコアテーマに共通する本質的キーワードは以下の3点に集約される。
- 当事者視点(子ども・若者・医療的ケア者・家族の最善の利益) 行政や大人の論理による「昭和型の価値観」や形式的な支援を脱却し、若者の「自分なりの納得感」や医療的ケア者家族の生活実態に即した「当事者本位の政策設計」を貫くこと。
- 制度間・省庁間の縦割り打破(包括的・重層的アプローチ) こども家庭庁の司令塔機能のもと、教育・福祉・医療・労働・産業の枠組みを横断し、18歳の壁に代表される制度の「狭間」や「切れ目」を排除した包括支援体制を構築すること。
- 持続可能な財政・人員体制の構築(現場の創意工夫と官民連携) 国の基本報酬のみに依存せず、自治体の一般財源投入(独自補助)や企業・金融機関との連携(子どもとともに成長する企業構想)、こども政策DXの活用により、現場の持続可能性を確保すること。
7.2 今後取り組むべきアクションプラン
国、都道府県、市町村の各行政主体は、以下の優先アクションに直ちに着手すべきである。
1. 国(関係省庁・こども家庭庁・厚生労働省等)への提言
- 「18歳の壁」解消に向けた障害福祉サービス報酬改定の抜本的見直し(最優先事項)
- 生活介護事業所における送迎加算および人員配置加算の構造的見直しを行い、「ハイエース1台に3〜4名乗車+看護師・介助員同乗」という現場の実態を正当に評価・公定価格化する報酬設計を策定すること。
- 小児科から成人科への医療移行(トランジション)推進体制の確立
- 診療報酬上の評価見直しを行い、地域で成人科(呼吸器内科等)が医療的ケア者を受け入れるインセンティブを大幅に強化すること。
- ライフデザイン教育および企業連携モデルの全国制度化
- 「子どもとともに成長する企業構想」の中小企業向け認証・低利融資支援の全国展開、および大学等におけるライフデザイン講義の標準化を推進すること。
2. 都道府県への提言
- 広域調整と専門人材・設備の地域格差是正
- 医療的ケア児等支援センターの広域調整機能を強化し、都市部(尼崎市等)と地方部(丹波篠山市等)における福祉施設・設備(障害者専用プール等)およびリハビリ専門職(PT/OT)の配置格差を是正すること。
- 広域型インクルーシブ保育・発達支援研修の実施
- 保育士・看護師・介護士らを対象とした統合的研修を定期開催し、地域全体の支援スキル向上を担保すること。
3. 市町村(基礎自治体)への提言
- 「医療的ケア者協議会(地域協議会)」の設置と多職種連携推進
- 改正法に基づき、行政・事業者・医療機関・当事者家族が定例的に協議する場を設置し、受入拒否や送迎・レスパイトの課題を地域全体で解消すること。
- 一般財源を活用した「生活介護事業所支援補助金」等の単独助成の創設
- 国制度の給付のみでは事業継続が困難な生活介護事業所等に対し、一般財源を活用した独自補助金(1日1万2,000円等の単独助成)により公的伴走を実施すること。
- 一石三鳥型の多世代交流・居場所事業の展開
- 「乳幼児ふれあい体験」や当事者発信型プラットフォーム(ユースラボ等)を地域内に導入し、若者のライフデザイン支援、ワンオペ育児防止、虐待トラウマの早期発見を同時に達成する重層的コミュニティを創出すること。

