本日は福祉と教育の会派の視察でした。

日本の多くの地方自治体が直面している人口減少問題。「地元の仕事が少ない」「魅力的な遊ぶ場所がない」といった従来の人口減少対策をどれほど打ち出しても、若者の流出に歯止めがかからない地域は少なくありません。
兵庫県豊岡市もまた、深刻な人口減少に長年頭を抱えていました。1980年に約10万人だった人口は2025年には約7万1,800人まで減少。このまま何も手を打たなければ、2040年には約5万8,000人(3割減)、2060年には約3万9,000人弱と、半世紀で人口が半分以下に崩壊するという壊滅的な将来推計が突きつけられていたのです。
しかし、データを詳細に分析する中で浮かび上がってきたのは、単なる「若者の過疎化」という言葉では片付けられない不都合な真実でした。それは「進学や就職で一度まちを出た若年女性が、圧倒的に戻ってこない」という揺るぎない現実です。
豊岡市が直視した「まちの存亡の危機」の核心は、長年放置されてきた男性中心社会への忌避感や、社会構造に根深く残るジェンダーギャップ(性別不平等)にありました。これは生易しい福祉政策ではなく、まちの存続をかけた最優先の生存戦略だったのです。
この危機に対し、豊岡市は行政・地元企業・地域コミュニティ・教育現場を巻き込み、これまでの常識を覆す大胆な改革に乗り出しました。本記事では、豊岡市が展開した「ジェンダーギャップ解消」にまつわる5つの衝撃事実と、現場で起きた変革のドラマの全貌を紐解きます。
衝撃事実1:男性の半分しか帰ってこない「豊岡ショック」の真実
人口動態データの詳細な分析を進めていた豊岡市幹部らに、激震が走ったのは2017年夏のことでした。2015年の国勢調査データを基に算出した20代前半の「若者回復率」(10代後半で進学や就職により転出した若者が、どれだけ地元に戻ってきたかを示す指標)に、絶望的な男女差が存在していたことが判明したのです。
- 男性の回復率:52.2%(2人に1人は地元へ戻る)
- 女性の回復率:26.7%(戻ってくるのはわずか4人に1人)
つまり、女性は男性の半分しか戻ってきていなかったのです。市はこの衝撃的な事実を「豊岡ショック」と名付け、構造的な原因究明に乗り出しました。
さらにデータを分析すると、男性の回帰率が都市部の景気や求人動向に連動して上下する(景気が悪くなると地元に戻る)のに対し、女性の回帰率は景気の良し悪しに関係なく、右肩下がりを続けていることが判明しました。
市は本当の理由を探るため、行政職員が直接聞くのではなく、豊岡に帰ってきた同世代の女性友人を介して「帰ってこない女性へのインタビュー調査」を実施。そこで浮かび上がった本音は、従来の「仕事がない」「遊ぶところがない」といった表面的な理由以上に、地域社会に対する切実な忌避感でした。
「男性に比べて女性はチャンスの機会が少ないという、そういう不公平、そういう社会。男性中心社会になっている、これに対する嫌悪感が女性の場合が多い」
同じ社会構成員でありながら、女性であるという理由だけで能力を発揮するチャンスが奪われるアンフェアな構造が、若い女性たちに「豊岡には戻らない」という決断をさせていたのです。
衝撃事実2:男性は企画、女性は窓口。「無意識の偏見」を痛烈反省した市長の詫び状と庁内改革
地域や企業に「意識改革」を迫る前に、豊岡市は自らの足元である市役所内部の点検を開始しました。
40代の市職員のキャリア履歴を調査したところ、驚くべき実態が明らかになりました。異動回数自体は男女で同等であるにもかかわらず、配属先の業務内容に決定的な偏りがあったのです。
- 男性職員: 企画、総務、財政など、組織の核心的・横断的なキャリアを経験
- 女性職員: 住民サービスの窓口や定型的な処分業務などに固定化
人事担当者が意図的に差別を行っていたわけではありません。前任者の配置を踏襲し続ける中で、「女性には窓口業務が向いている」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が働き、結果として致命的なキャリア格差を生み出していたのです。
この結果を受け、当時の市長は女性職員に対して直接お詫び(謝罪)を行い、即座に庁内改革を決断しました。
2年間で3カ所の部署を経験させるジョブローテーション制度を導入し、企画や総務、財政といった重要部署へ女性職員を積極的に配置。さらに「キャリアサポートシート(CSシート)」を導入し、上司と部下が定期面談でライフイベントとキャリア形成の両立をオープンに話し合える仕組みを整えました。
また、市役所特有の「縦割り行政」を打ち破るための組織工夫もなされました。「ワーク・ライフ・バランス推進室」を総務部内に設置した際、民間企業との接点が多い経済振興部門の男性職員と、庁内人事の知見を持つ女性職員をペアで配置。これにより、行政内部の改革と地元企業へのアプローチが劇的にスムーズになりました。
こうした取り組みにより、市役所内では明確な定量変化が表れています。
- 市役所の女性管理職比率: 2018年度の7.7%から2025年度には18.6%(2.4倍)へ増加
- 男性の育休取得率: 100%を達成(平均取得日数も当初の約2週間から約1カ月へ大幅延伸)
衝撃事実3:社長が「女性社員」を演じる演劇研修と、本音をあぶり出す無記名調査
行政の改革と並行して推進されたのが、地元企業を巻き込んだ「ワークイノベーション」の取り組みです。市内の企業が「女性も働きやすく、働きがいのある職場」へ生まれ変わるため、極めてユニークな手法が取り入れられました。
その一つが、市内に開校した芸術文化観光専門職大学や、劇作家の平田オリザ氏率いる劇団(青年団)の協力を得て実施された「演劇的手法を使ったワークショップ」です。研修では、男性社長が女性従業員役を、女性従業員が男性社長役を演じるロールプレイングを実施。立場を入れ替えて演じ切ることで、普段の職場では言えなかったモヤモヤや他者への深い理解を、体感的に深く刻み込みました。
また、全従業員(非正規雇用を含む)を対象に、スマートフォンで10分程度で回答できる「無記名式の従業員意識調査」を導入しました。
「社長はその会社の社員さんが働きやすくて働きがいがあるだろうというふうに思っていることをちょっと実施するんですけど、結果が結構真逆のが来るんですね。で、そういうのを社長の方に報告言ったらかなりショックを受けられるんですけど、そこから立ち直って専門家とかを入れて社内の改革に乗り出している」
自動車内装パーツ等を製造する株式会社JBでは、社長が思い描いていた自社評価と真逆の厳しい調査結果が出たことにショックを受けつつも、社労士やジャーナリストなどの専門家を投入。管理職業務の徹底的な見直しや会議のスリム化を実施した結果、かつてはほぼゼロだった女性管理職比率が5割超へと急上昇しました。
さらに豊岡市は、優良企業を表彰する「あんしんカンパニー」認証制度を設計。経営者層から「ハードルが高すぎるので基準を緩めてほしい」と要望されても市は妥協を拒否し、代わりに「宣言カンパニー」「保育カンパニー」というステップアップ構造を新設しました。定量データだけでなく無記名意識調査(定性評価)の厳密な審査を維持したため、申請企業のうち認証をパスするのはわずか約2割という本気の質を担保しています。
現在では140を超える事業所が「ワークイノベーション推進会議」に参加し、地域ぐるみで職場環境のアップデートを競い合っています。
衝撃事実4:「おっさんたちの都合」を自白?70代男性や伝統行事が変わった瞬間
改革の波は、最も変化が難しいとされていた「地域コミュニティ」や「伝統行事」の場にも波及しました。
農村地域である福田区では、コロナ禍を契機に地域の自治や医療の仕組みを見直す「医療見直し委員会」を発足させました。その際、答申書を取りまとめた60代の男性委員長は、自戒を込めて次のような衝撃的な文言を公文書に書き残しました。
「おっさんたちが、おっさんたちの都合よくやりやすい仕組みを作っていた」
この痛烈な反省を出発点として、福田区では女性も参画できる組織構造への改編が断行されました。祭りや防災といった地域の取り組みにおいて、「女性=炊き出し・裏方」という性別による固定的役割分担を撤廃。性別ではなく個人の特技や能力に応じて担当を決める運用へと転換したのです。
また、出石(いずし)エリアの伝統行事である出石神社の「のぼり回し」では、古くから「男の子がいる家庭のみを回る」というしきたりが存在していました。しかし少子化が進み、伝統の存続自体が危ぶまれる中、地域内で「なぜ女の子は参加できないのか」という疑問の声が上がります。
伝統を諦めるのではなく時代に合わせてアップデートするため、女の子の参加を全面解禁。さらに地元の芸術文化観光専門職大学の女子学生たちも担ぎ手として招き入れました。伝統行事に若い女性たちが笑顔で躍動する光景は、今や地域の新しい日常となっています。
さらに池上温泉エリアの地域コミュニティでは、70代の自衛隊出身の地域会長が「断層の拒否をぶっ壊せ」と力強く発信し、自らジェンダー平等の研修会を主催。最も頑固と見られていたベテラン男性リーダーたちが、変革の力強い牽引役へと変わっていったのです。
衝撃事実5:週1日・1日2時間の「プチ勤務」と日本初の3者協定が介護・福祉を救う
女性の就労支援と、地元の深刻な人手不足(特に福祉・介護分野)を同時に解決する特効薬となったのが、「プチ勤務」の導入です。
子育てなどを理由に一度離職した女性が再就職を目指す際、いきなりフルタイムで復帰しようとすると離職率が高くなるという課題がありました。そこで豊岡市は、「週1〜2日、1日2〜3時間」という極めて短時間・少日数から無理なくステップアップできる仕組みを構築しました。
具体策は以下の通りです。
- 「お仕事カタログ」の作成: 行政やハローワークのガチガチとした求人票ではなく、子育て中の女性が最も気になるポイント(「子供の発熱時に急な休みが取れるか」「土日休みか」など)を一目で確認できるポップな独自ツールを作成。
- 業務の棚卸しと切り出し: 専門家が福祉・介護事業所などの現場に入り、正規職員の業務内容を徹底的に精査(棚卸し)。周辺業務や短時間で代替可能な業務を「プチ勤務用」として切り出しました。
この業務切り出しにより、正規職員は専門業務に集中できるようになり、事業所側の人手不全が劇的に解消。プチ勤務で復職した女性にとっても、家庭の状況に合わせて徐々に勤務時間を増やし、最終的にフルタイム復帰を果たす理想的なルートが確立されました。
この施策を力強く支えたのが、2019年に締結された「豊岡市 × 厚生労働省兵庫労働局(ハローワーク) × ワークイノベーション推進会議」による日本初の3者連携協定です。行政の縦割りを越えたこの強固なバックアップのもと、子育てママと企業を繋ぐ2日間のマッチングイベントでは、参加した72名の母親のうち19名がその場で採用決定に至るという驚異的な成果を叩き出しました。
まとめ:持続可能な地域社会をつくる「社会システムのアップデート」
豊岡市が推し進めてきた一連のジェンダーギャップ解消施策は、決して過去の伝統や地域の歩みを否定するものではありません。産業構造や人口構成が激変する現代において、時代に合わなくなった古いルールや社会システムを「最新版にアップデートする」取り組みです。
豊岡市の挑戦は、組織や地域が変わるために以下の3つのステップが不可欠であることを証明しています。
- 気づく(可視化): データや当事者の本音調査により、隠れた格差や無意識の偏見を数値とリアルな声で可視化する。
- 自分事にする: トップ自らの謝罪、演劇研修、無記名調査などを通じて、リーダーや構成員が「自分の課題」として痛感する。
- 行動する: ジョブローテーション、プチ勤務、3者協定、伝統行事のルール改定など、具体的かつ持続可能な仕組みへ落とし込む。
変革には痛みが伴い、時間もかかります。しかし、世代を超えて互いを否定せず対話を重ねることで、どれほど頑固に見えた地域であっても確実に変わり始めます。
あなたの街や職場には、無意識のうちに誰かの選択肢を狭め、未来の可能性を奪っている「当たり前」が放置されていませんか?


