単なるばらまきを超え、明石市・丹波篠山市から学ぶ「人と人の繋がり」をつくる
私が選挙前から伝えている子育て支援、少し現在地をまとめてみます。
1. 導入
全国の多くの自治体が、歯止めのかからない人口減少や、子育て世帯の孤立という深刻な課題に頭を悩ませています。こうした危機感から、子育て支援施策の充実に乗り出す自治体が増加していますが、単に現金や給付金をばらまくだけの政策では、街の根本的な課題解決には至らず、持続可能な発展を描くことはできません。
子育て支援政策は、ともすれば「特定世帯への一時的な手当」や「安易な人口増のための集客ツール」として消費されがちです。しかし、政策の本質を見誤ると、住民間の分断を引き起こしたり、自治体財政を一方的に圧迫して終わってしまったりする大きなリスクを抱えることになります。
今回は、手厚い子育て支援と画期的な行財政改革を結びつけ「財政逆転劇」を成し遂げた兵庫県明石市と、地域密着型の伴走支援ネットワークを築き上げる兵庫県丹波篠山市の取り組みを徹底分析します。
都市型改革と地域密着型モデルというアプローチの違いを超えて、真に持続可能な地域づくりに必要な「人と人との繋がり」を創出する行政戦略の真髄を解き明かします。
2. 「人口増加」は目的ではなく結果
「所得制限なし」が人と人の繋がりを守る
子育て支援政策を設計する際、常に議論の的となるのが「所得制限を設けるべきか否か」という選択です。特定の生活困窮世帯に限定して財源を集中させる「生活困窮者支援」型のアプローチは、一見すると限られた予算の効率的な使い方に思えるかもしれません。
しかし、そこには「支援を受ける側」と「受取対象外となり税を負担する側」の間に分断や対立を生み出しやすいという構造的なリスクが潜んでいます。
これに対し、明石市が断行したのは「所得制限を一切設けない」ユニバーサルデザイン(全世代・全世帯一律)の施策展開です。医療費の無償化や第2子以降の保育料完全無料化などを、家計の所得水準にかかわらず一律に対象とすることで、一部の層に対する特別扱いという偏見を排除しました。「地域全体で子どもを育てる」という共通認識を形作ったことが、住民同士の感情的対立を防ぎ、地域コミュニティにおける人と人との繋がりを維持・強化することに大きく貢献したのです。
ここで極めて重要なのは、子育て支援を「人口を増やすための手段」として履き違えないことです。「人口増加」を直接の目的に据えてしまうと、「人口が増えないなら効果がないので支援をやめる」という本末転倒な判断に陥りかねません。政策の本質は、目先のエクセル上の数値目標ではなく、助け合いのコミュニティそのものを維持・再生することにあります。
「人口を増やすことを目的とするんだったら、人口増加が見込めない子育て支援政策はやらないという判断になる。しかし、明石が目指したのは人と人との繋がりに基づく優しい街づくりであった。」
3. 財政の逆転劇
削減と税収増が生み出した「子育て投資」の好循環
手厚いユニバーサル支援を展開するには莫大な財源が必要となりますが、明石市は徹底した行政改革による「支出削減」と、それが呼び込んだ「税収増・交付税増」の好循環によって財政の逆転劇を実現しました。
まず最初に取り組まれたのは、他部門における徹底したコストの見直しとリソースの再配分です。2010年度から2020年度にかけて全庁的に130人の職員数を削減し、各種手当の引き下げや約2億円に上る事務事業の見直しを断行しました。さらに、公共施設の包括的管理委託やエネルギーの一括調達などを進めて経費を圧縮。ここで捻出された財源と人件費を活用し、専任組織である「子ども局」の職員数を133人増員(従来の3倍以上)させるという、劇的な配置転換を行いました。他部門の削り幅に匹敵するリソースを丸ごと子ども部門へ集中投下したのです。
この強固な基盤のもとで展開された「5つの無料化」施策(下表参照)は、20代・30代の若年現役世代(子育て世代)の大幅な転入(社会増)を呼び込みました。明石市の社会増は2012年から始まり、2015年〜2020年の人口増加率は全国の中核市で1位を記録しました。この人口流入が、以下のような多角的な財政還元をもたらしました。
- 個人市民税の増加 転入した現役世代の所得税収により、10年間で約20億円増加。
- 固定資産税の増加 子育て世代の定住に伴う住宅取得や新築増加、それに伴う地価上昇による増収。
- 事業所税の創設 人口増加により30万人を超えて中核市となったことで、2018年度から年間約17億円の「事業所税」が新設・課税可能に(市税総額は10年間で約39億〜40億円増加)。
- 地方交付税(普通交付税)の自動増額 単に市税が増えただけでなく、人口増によって国の財政需要算定基準である「基準財政需要額」が引き上げられました。言い換えれば、街の規模拡大に伴って国から支給される普通交付税の算定枠が自動的に拡大し、単年度で約2.5億円の交付税増をもたらしたのです。
明石市の財政担当者も、「手厚い施策が可能となったのは、行革による支出削減の効果よりも、人口増に伴う市税収入や地方交付税の増加というプラス効果が遥かに大きかった」と実感を語っています。投資がさらなる歳入を生む理想的な財政循環が立証されたと言えます。
明石市の主な「5つの無料化」政策
| 施策名 | 対象・内容 | 開始・実施時期 |
|---|---|---|
| 中学生以下の医療費無料化 | 中学生までの医療費を無償化 | 2013年〜 |
| 第2子以降の保育料完全無料化 | 家計所得を問わず完全無料化 | 2016年〜 |
| 明石こども広場 | 誰でも無料で利用できる拠点 | 2017年〜 |
| 中学校給食の無料化 | 中学校の給食費無償化 | 2020年 |
| おむつの定期便 | 全子育て家庭へ一律配送 | 継続実施 |
4. 単なる食事提供ではない!全校区へ展開する「明石型子ども食堂」の真価
民間ボランティアの善意に全面的に依存しがちな一般的な子ども食堂とは異なり、行政が明確な計画性とリーダーシップを持って全域展開を主導した点が「明石型子ども食堂」のイノベーションです。
子ども食堂を民間の自主的な活動だけに任せておくと、立ち上げやすい地域とそうでない地域の間で「支援の偏り」が発生します。しかし、子どもたちの主たる移動・行動エリアは「自分が通う小学校区内」に限定されます。明石市は「支援を受けられない地域を作らない」ため、行政主導で市内全28の小学校区すべてに子ども食堂を配置する方針を打ち出しました。その結果、2018年度には全28小学校区(38箇所)への配置を達成し、2023年末時点では54箇所にまで拡大しています。
計画的な全校区配置には、単なるアクセス保障にとどまらない戦略的メリットがあります。例えば「A校区の子ども食堂は水曜日」「隣接するB校区は金曜日」というように開校日を調整・補い合うことで、子どもたちが曜日ごとに近隣の食堂へ柔軟に通える相互補完ネットワークが完成するのです。
明石型子ども食堂は、以下の3つの主要機能を重視して運営されています。
- 遊ぶ・学ぶ場 子ども同士が放課後に安心して集い、遊びや勉強を通じて健やかなコミュニティを育む空間。
- 地域との交流の場 貧困対策という狭い枠組みにとらわれず、高齢者から若者まで地域の誰もが自由に集える多世代交流拠点。
- 気づきの地域拠点(SOSの察知) 見守りの網を広げ、子どもや保護者が発する微細な悩みやSOSを早期に察知して専門機関へ繋ぐ予防的セーフティネット。
行政は1回の食事提供につき2万円の運営助成金を交付する際、「地域との交流の場として機能させること」を必須要件に掲げています。この明確なビジョンに触発され、自治会やまちづくり協議会だけでなく、民間事業者も自発的に参加し始めました。地元のビジネスホテルが敷地スペースを会場として提供したり、地元出身の中小企業経営者が地域への恩返しとして自社物件を提供・運営したりするなど、行政のリーダーシップが民間の社会的投資を呼び込む素晴らしい好循環を生んでいます。

5. 子育て支援が「街全体の活性化」と「高齢者の住みやすさ」へ波及する
明石市における子育て政策の成功は、子育て世帯という直接の受給者だけでなく、商店街や事業者、そして高齢者住民に対しても極めて大きなプラスの外部効果(波及効果)をもたらしました。
手厚い支援を求めて20代・30代の若年現役世代が多数転入したことで、かつては人通りが少なく閑散としていた中心市街地や駅前商店街の風景が一変しました。歩行者や自転車の交通量が著しく増加し、子育て世帯の日常的な消費活動によって商店街区域への新規出店が相次ぐなど、地域経済全体が劇的な活性化を遂げたのです。
この「街全体の活気」は、直接的には子育て支援制度を利用しない高齢者にとっても、「賑やかで買い物がしやすく、住み心地が良い街」という大きな恩恵をもたらします。仮に子育て支援が一部の層に対する「不公平な税金の配分」にとどまっていたならば、「なぜ子育て世代ばかり優遇するのか」という世代間対立を引き起こしていたでしょう。しかし、子育て投資が地域経済を潤し、街全体の価値を底上げしたことで、高齢者や事業者にとっても共通の利益となり、世代間の分断を見事に回避することに成功したのです。
6. 地域に根ざした「切れ目のない支援ネットワーク」の広がり
「丹波篠山市の取り組み」
大規模な行財政改革とユニバーサル施策で急速な人口増を成し遂げた都市型の明石市に対し、豊かな自然と地域コミュニティを活かして深みのある伴走型支援を実践しているのが兵庫県丹波篠山市です。自治体の規模や財政状況は異なれど、「政策の中心に人と人との繋がりを置く」という根本思想は両者に共通しています。
丹波篠山市では、行政、社会福祉協議会、地域住民が一体となり、妊娠前から学童期、青年の成長に至るまでをカバーする多層的なセーフティネットを構築しています。
- 「こども家庭センター」の一元化体制(令和7年4月1日開所) これまで別組織として運用されていた母子保健(健康課:丹南健康福祉センター「ふたば」)と児童福祉(社会福祉課児童福祉係:市役所第2庁舎)の機能を統合し、令和7年4月1日に「こども家庭センター」を開設。保健師、助産師、家庭児童相談員らがワンチームとなり、妊娠・出産期から子どもが18歳になるまで、発達・育児・学校生活・ヤングケアラー・児童虐待などのあらゆる相談に「切れ目のない支援」をワンストップで提供します。
- 丹波篠山市ファミリーサポートセンター(社会福祉協議会) 市内在住・在勤で概ね0歳から小学6年生までの子どもを持つ「依頼会員」と、自宅等で子どもを預かる「協力会員」(要講習会受講)を結ぶ会員制の相互援助ネットワーク。「仕事で送迎が間に合わない」「受診やリフレッシュ」など多角的なニーズに対応します。 謝礼体系は一般保育時間内(7:30〜18:30)で350円/30分、時間外や土日祝・送迎は加算(50円/30分増)が設定され、第2子以降は半額という利用しやすいルールが整備されています。万一の事故に対しても、センター側が全額費用を負担して補償保険に加入する万全の体制をとっています。
- 地域密着型の一時預かり&保育ボランティア 生後6ヶ月〜就学前を対象とした月1〜2回実施の「子ども一時預かりかんがるー」や、各種講習会・サークル活動時の託児を担う保育ボランティア「コアラ」など、地域住民の温かい手助けを組織化した柔軟なサポート構造が機能しています。
このように、大都市的な数値目標に依存せずとも、一人の子ども、一つの家庭に寄り添う「繋がりの網目」を密に編み上げていくアプローチは、全国のあらゆる自治体にとって極めて汎用性の高いモデルと言えます。
7. 結論・まとめ
明石市と丹波篠山市という2つの先進事例が明確に示しているのは、子育て支援の本質とは「単なる給付金や現金の支給」でもなければ、「他自治体から住民を奪い合うための人口誘致合戦」でもないということです。
子育て支援の真の目的とは、施策を通じて地域社会における「人と人との繋がり」を再生・強化し、世代を超えて互いを支え合う新しい市民文化を創出することにあります。
所得制限を設けないユニバーサルデザインによる「分断の回避」、全小学校区への子ども食堂配置による「孤立の防ぎ込み」、そして妊娠前から18歳まで伴走し続ける「切れ目のない相談体制」。これらはすべて、コミュニティの繋がりを太く育むための緻密な行政戦略です。そして、そうした温かく信頼に足るコミュニティが築かれたからこそ、持続可能な人口増加、税収増、そして街全体の活性化という「素晴らしい結果」が後からついてきたのです。
私たちが暮らす街やコミュニティでは、住民同士の対立や孤立を防ぎ、誰もが安心して暮らせる「優しい街づくり」のために、明日からどのような人と人との「繋がり」をデザインすることができるか?が大切だと考えます。
