議会はもっと「クリエイティブ」になれる。

滋賀県甲賀市と愛知県岩倉市に見る、住民を本気にする5つの仕掛け

「政治は自分たちの生活とは遠いもの」「議会が何をしているのかさっぱりわからない」。

そんな風に感じたことはありませんか? 多くの人にとって、市役所の議場は「近くて遠い場所」かもしれません。

しかし今、その距離を劇的に縮めようとする、クリエイティブな挑戦を始めている自治体があります。

2026年7月、兵庫県丹波篠山市議会の広報広聴常任委員会が視察に訪れた、滋賀県甲賀市と愛知県岩倉市の取り組みです。

人口約4万7,900人のコンパクトな愛知県岩倉市と、480平方キロメートルを超える広大な面積を持つ滋賀県甲賀市。規模も環境も異なる両市に共通していたのは、住民が来るのを待つのではなく、議会が自ら住民に「会いに行く」という能動的な姿勢でした。

私たちの議会に対する先入観をアップデートする、5つの驚きの仕掛けをご紹介します。

くじ引きで選ばれる「議会サポーター」という特別感(岩倉市)

愛知県岩倉市議会が平成30年から導入している「議会サポーター制度」は、無関心層を動かすための緻密な戦略に満ちています。特筆すべきは、その選定方法。自ら応募する「公募」ではなく、住民基本台帳から「無作為抽出」、つまり「くじ引き」で選ばれた市民に案内を送るスタイルです。

  • 「招待」が生む当事者意識:18歳から85歳までの市民の中から、人口比に基づいた5つの区分で500名を抽出。あえて若年層(10代〜30代)の抽出数を増やすことで、政治の高齢化に抗っています。
  • 3,000円のQUOカードという「誠実さ」:ボランティア任せにせず、謝礼を用意することで、活動への責任感と参加へのハードル低下を両立させています。
  • 「サポーター」という名称の魔法:単なる「監視役(モニター)」ではなく、共に歩み、議会を応援する存在であってほしいという願いが込められています。

「市議会を支援・応援してほしいという観点から『サポーター』という名称が採用された」

自分から手を挙げるのはハードルが高くても、「500人の中に選ばれました」と議会から直接メッセージが届けば、「一度行ってみようか」という「特別感」が生まれます。これが、これまで議会に縁のなかった層を呼び込む鍵となっています。

ショッピングモールで「3分間」の民意抽出(甲賀市)

滋賀県甲賀市議会が実践したのは、究極のアウトリーチ(出向き)型調査です。彼らが向かったのは議場ではなく、若者や現役世代が集まる大型商業施設「アヤハプラザ」でした。

そこでは、お堅いヒアリングではなく「3分アンケート」を実施。わずか1.5時間で125名もの市民から意見を集めることに成功しました。「議会が市民を待つ」という従来の姿勢を捨て、議員自らがエスカレーター横や広場に立つことで、普段は声が届かない世代の「生の声」に触れたのです。

ここで集まった「夜間小児科の充実」や「公共交通の改善」といった切実な意見は、単なるメモで終わりません。実際に常任委員会の調査や一般質問の根拠として活用され、政策へとつながる好循環を生み出しています。

中学生でも読みたくなる「推せる」議会だより(甲賀市)

「議会だより」といえば、難しい用語と議員の顔写真が並ぶだけのもの……というイメージを、甲賀市は鮮やかに塗り替えました。驚くべきは、企画から業者との調整まで、すべて議員自身が「手作り」している点です。

  • デザインの「鉄則」を徹底:中学生や小学生でも読みやすいよう、「写真は傾けない」「文字を詰め込みすぎない」といった独自のルールを運用しています。
  • 表紙は市民との共作:表紙写真を一般公募し、市民参加の入り口を作っています。
  • 人間味あふれるプロフィール:議員紹介ページでは、**「好きな歌」**を掲載するなど、自由な形式で個性を表現。

「情報を正確に載せる」だけの広報から、「まずは手に取ってもらう」ための広報へ。議員を「遠い政治家」ではなく「一人の人間」として見せる工夫が、情報の到達率を劇的に高めています。

「教室に議員がいる」主権者教育のリアリティ(岩倉市)

岩倉市議会議長が推進する小中学校での「主権者教育」は、単なる講義ではありません。議員が各クラスのディスカッションの中に一人の参加者として混ざり、生徒たちのリアルな意見に耳を傾けるスタイルです。

この活動の最大の価値は、子供たちに「自分の声が大人(社会)を動かした」という成功体験を与えることにあります。

  • 政治的無関心の防止:中学生の意見がきっかけで、実際に議員が一般質問を行った事例もあります。「言っても無駄」という諦めを、「言えば変わる」という実感に変える、極めて実戦的な教育です。
  • 「大人の本気」を見せる:議員が教室に足を運ぶこと自体が、子供たちにとっての「民主主義のリアリティ」となっています。

帽子、乳幼児、タブレット——「傍聴の壁」を壊すアップデート

両市は、議会の「当たり前」を市民目線で破壊し、傍聴のハードルを下げる試みを続けています。

  • 「立ち寄りやすさ」の追求(岩倉市):受付での記名を不要にし、本会議中の写真・動画撮影も許可。これにより、通りすがりの市民がふらっと覗き込める心理的余裕を生んでいます。
  • 対立から「対話」へ:サポーターの提案を受け、岩倉市では「職員が座って答弁する形式」を採用。威圧感を排除し、建設的な議論を行う場への転換を図っています。
  • 時代に合わせた規則見直し(甲賀市):「帽子を脱ぐ」といった時代に合わない規則や、乳幼児連れの傍聴制限を撤廃するための議論が始まっています。
  • デジタル化の落とし穴への気づき:議会のタブレット導入により、傍聴席から「何が審議されているか文字が見えない」という新たな課題(デジタル化による阻害)にも着目し、改善を模索しています。

あなたの街の議会に、何を求めますか?

今回紹介した取り組みは、決して「完成された成功物語」ではありません。実際には、両市とも「アンケート回収数の減少」や「SNSの活用不足」といった現在進行形の悩みや失敗を抱えながら、泥臭く試行錯誤を続けています。

しかし、その「変化しようとする意志」こそが、議会をクリエイティブにし、住民を本気にさせるのではないでしょうか。

もし、あなたのもとに「議会サポーター」の招待状が届いたら。あるいは、ショッピングモールでアンケート板を持った議員に出会ったら。

「もしあなたが議会サポーターに選ばれたら、最初にどんな声を届けたいですか?」

議会を変えるのは、特別な誰かではなく、あなたの一言から始まる「自分たちの物語」なのかもしれません。