「ワクワク」が消えた教室を変える。丹波篠山市の議会から見えた、不登校支援の新しいカタチ
いま、学校のあり方が大きな転換点を迎えています。兵庫県丹波篠山市の議会で交わされた議論から見えてきたのは、単に「学校に戻す」ことだけをゴールとしない、子供たちの未来を真に支えるための新しい支援の姿でした。
不登校という課題を通じて、これからの公教育がどう変わるべきなのか。教育・社会課題の視点から、その核心を紐解きます。
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1. 静かに広がる「学校に行かない」という選択
丹波篠山市において、学校を長期欠席している児童生徒の数は、深刻な増加傾向にあります。
- 令和3年度:92人
- 令和4年度:137人
- 令和5年度:159人
ここで注意深く見るべきは、数字の中身です。教育長の説明によれば、この「159人」という数字は30日以上の長期欠席者全体を指しており、国や県の定義する「不登校」の基準に当てはめると実際には30〜40人ほど少なくなります。
しかし、市議会ではあえてこの「159人」という数字を重く受け止めています。数字の定義に固執するのではなく、「現に学校へ行けず、苦しんでいる子供たちがこれだけいる」という実態を、氷山の一角として捉えているからです。従来の「いかに教室へ戻すか」という復帰至上主義から脱却し、子供の「居場所」と「心の安全」を最優先にする議論が始まっています。
2. 「17人の子供に3人のスタッフ」— 善意に頼る支援の限界点
不登校の子供たちの受け皿となっているのが、市の教育支援センター「夢ハウス」です。その現状は、成功と苦悩が表裏一体となっています。
- 「選ばれる場所」への成長: 昨年度まで5名程度だった登録者数が、今年度は17名にまで急増。1日平均8〜10名が利用しています。
- 現場の疲弊: この急増に対し、スタッフはわずか3名。一人ひとりの特性や発達の課題に寄り添うには、すでに物理的な限界を超えつつあります。
議会では、現場の切実な声が紹介されました。
「17名になってくると職員が対応するのはすごくしんどい。今それだけ子供たちが求めている場所である」
居場所を求める子供が増えたことは、そこが「安心できる場所」として認知された証拠でもあります。しかし、スタッフの善意や犠牲に頼る支援は持続可能ではありません。人員の増員や拠点の増設など、支援の「質」を守るための「量」のアップデートが急務となっています。
3. 学力はピラミッドの「屋根」にすぎない。脳が最も育つのは「ワクワク」する時
教育の優先順位について、議会では「発達のピラミッド」という概念を用いた鋭い指摘がありました。本来、子供の成長には以下の順序が必要です。
- 土台:体(健康、感覚、情緒の安定)
- 柱:心(自己肯定感、非認知能力)
- 屋根:学習(学力)
しかし、現在の教育現場では、土台が揺らいでいる子供に対しても、最上階の「学力」を優先して求めてしまう「逆転現象」が起きていないでしょうか。
脳科学的にも、子供の脳が最も発達するのは**「ワクワクしている時」**だと言われています。やり抜く力や感情をコントロールする力といった「非認知能力」が育って初めて、知的好奇心は駆動します。「学ばなければならない」という受動的な重圧を、「学びたい」という能動的な意欲へ。この土壌づくりこそが、不登校支援の根幹です。
4. 真面目な子ほど「休めない」から。家族で過ごす「安全基地」としての休息
不登校を未然に防ぐための一手として提案されたのが、**「ラケション(ラーニング+バケーション)」**の導入です。これは、保護者の平日の休みに合わせて子供が学校を休んでも、欠席扱いとしない制度です。
- 「休む勇気」を公的に認める: 責任感の強い真面目な子供ほど、「学校は絶対に行かなければならない場所」と思い込み、自分を追い詰めてしまいます。
- 安全基地の構築: 親子でゆっくり過ごす時間を市が公認することで、子供は「ここは休んでもいい場所なんだ」という安心感を得られます。この心の安全基地(セーフティベース)が、不登校のトリガーを抑止する力になります。
もちろん、旅行などの「体験」に焦点が当たると、経済格差によって恩恵を受けられない家庭が出るという懸念もあります。しかし、本質はレジャーではなく**「親子が一緒に過ごす癒やしの時間」**を確保すること。丹波篠山独自の、休息をポジティブに捉える文化が求められています。
5. プールの授業が「格差」を埋める? 公教育にしかできない体験の平等
もう一つ、非常にインパクトのある提案が「全校での温水プール利用」への移行です。現在、一部のモデル校で行われている「にしき運動公園」での授業を全校に広げるという構想です。
- 体験の格差を解消: スイミングスクールに通える子とそうでない子の「泳力の差」は、学校での自己肯定感に直結します。
- 成功体験の提供: 天候や熱中症リスクに左右されない環境で、専門的な指導を受ける。これにより「泳げなかった子が泳げるようになる」という、公教育でしか成し得ない「体験の平等」が実現します。
ただし、これを全校で実施するには、施設の運用キャパシティや移動手段の確保など、行政上のハードルが低いわけではありません。教育長もその困難さを認めつつ、検討を進める姿勢を示しました。理想と現実のギャップを埋めるためのロジカルな計画が、次のステップとなります。
結び:誰一人取り残さない「令和の丹波篠山型教育」への問い
今回の議会で最も印象的だったのは、子供たちの「幸福感(ウェルビーイング)」を語る際、学習の優先順位は友人関係や教師のサポートに続く「3番目」であるという視点でした。
現場の先生方は、今この瞬間も懸命に子供たちと向き合っています。しかし、大人がよかれと思って守り続けてきた教育の「当たり前」が、時として子供たちのワクワクを奪っているのかもしれない。そんな内省的な問いが、この街の教育を変えようとしています。
子供たちが明日、ワクワクして目を覚ますために。私たち大人は、どんな「安心」を彼らに手渡せるでしょうか?
その答えは、データの裏側にある一人ひとりの「しんどさ」に耳を傾け、既存の枠組みを柔軟にアップデートし続ける勇気の中にあります。
YouTubeの要約、しかしながらAIのちからはすごい
1. 不登校支援における行政・福祉との連携
- 桐村議員の指摘と提案: 丹波篠山市の不登校(長期欠席を含む)児童生徒数は増加傾向にあり、その背景には発達的課題を抱える子も多い。教育委員会や学校だけでなく、**福祉部局との強力な連携(トライアングルプロジェクト)**を推進し、誰一人取り残さない体制を構築すべきであると主張しました。
- 丹後教育長・事務局の回答: 現在もスクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)、福祉部局と連携し、ケース会議や情報共有を行っている。今後はさらに、保護者が安心できるよう、個別の事案に対してより丁寧な対応と環境整備に努めるとしています。
2. 子供への聞き取り調査と先生へのアンケート
- 桐村議員の指摘と提案: 大人(学校)と子供の「学習」に対する意識のズレを解消するため、不登校の子供や保護者への個別訪問による聞き取りを提案。また、校長に気兼ねなく本音を言える形での先生への匿名アンケートを実施し、ボトムアップ型の学校づくりを進めるべきだと説きました。さらに、学力よりも非認知能力(生きる力、ワクワクする心)の育成を重視すべきだと主張しました。
- 丹後教育長の回答:
- 子供への対応: 個別訪問は時期や状況を見極める必要があり、一律の実施は子供を追い込む危険性もあるため慎重な姿勢を示しつつも、ICTの活用や朝の会等で子供の状況把握に努めていると回答。
- 非認知能力: 議員の考えに同感であり、広い意味での学力(思考力・判断力・表現力)や生きる力を育む教育、ワクワクする体験を重視していくと述べました。
- 学校のあり方: 8月に不登校支援の指針「丹波篠山市が目指す学校について」やリーフレットをまとめ、研修を実施している。
3. 「ラーケーション(ラケショ)」の導入
- 桐村議員の提案: 保護者の休みに合わせて学校を休んでも欠席扱いにしない**「ラーケーション」**の導入を提案。親子で過ごす安心な時間を作ることが、子供の安心感につながり、不登校のトリガーを抑止する(未然防止)になると主張しました。
- 丹後教育長の回答: 現在も家庭の用事で休むことに特段の制限は設けておらず、学習等に配慮して対応している。制度としての導入は、経済状況や家庭環境の差を考慮する必要があり、一部の自治体の例を注視している段階です。
4. 体験格差の解消(プール授業の移行)
- 桐村議員の提案: 天候や熱中症に左右されず、専門的な指導が受けられる**「西紀温水プール」へ全ての小学校のプール授業を移行**することを提案。これにより、家庭の経済状況による経験の差(スイミングスクールに通えるか否か等)を解消し、子供の自己肯定感を高めるべきだと述べました。
- 丹後教育長の回答: 昨年度から導入し、本年度は4校で実施している。全校一斉の移行は施設の収容人数や運用面から困難であるが、学校の意向や設備の状況を考慮し、対象校を増やす方針です。
5. 支援施設の現状と課題(事務局回答含む)
やり取りの中で、市内の支援体制について以下の現状が示されました。
- 教育支援センター「夢ハウス」: 利用者が昨年度の5名前後から今年度は17名に急増し、スタッフ3名での対応が限界に近い。来年度に向けてスタッフの増員を検討中。
- 校内サポートルーム: 今年度から新たに設置が進み、全8校(小3、中5)で支援員の配置が完了した。
- 民間フリースクールへの支援: 今年度から民間のフリースクール等に対し、講師謝金や教材費などの50%(上限50万円)を補助するモデル事業を開始している。
総括として、 桐村議員は現場の声(子供・保護者・先生)を徹底的に吸い上げ、既存の「学力」の枠組みを超えた支援を求めました。これに対し、丹後教育長は現在の取り組みを「素晴らしい教育をやっている」と自負しつつも、議員の提案に共感を示し、課題解決に向けて柔軟に検討していく姿勢を示しました。
